シャツやタオル、カーテンなど私たちの生活に身近なコットン。天然・ナチュラルなイメージから、なんとなく「コットンは環境に優しい」と感じている方は多いのではないでしょうか?
ところが、コットン栽培には大きな環境負荷が掛かっているのが現状です。その問題を解決するものがサステナブルコットンとよばれるもの。本記事ではサステナブルコットンについて解説し、企業の取り組みについてもご紹介します。
コットン栽培の何が問題なのか?
サステナブルでないコットンの栽培は、環境にどのような影響を与えるのでしょうか?
水を大量に使用する
コットンは農作物を栽培する上で多くの水を使用する作物です。1キロのコットンを作るためには、約1万リットルの水が必要で、コットン畑の灌漑用水として使うためには、河川や地下水から大量の水を引き抜かなければなりません。
コットン栽培は、インドなどもともと水資源が乏しい国で盛んに行われています。世界の農業の4分の1は、水資源のリスクがある地域で栽培されているといわれていますが、なんとそのうちコットンが占める割合は57%。これはトウモロコシや小麦を凌ぐ数値です。そんな状況下の中で大量の水が必要なコットン栽培を続けていると、十分な飲み水が確保できなくなってしまいます。
土壌と水源を汚染してしまう
コットン栽培では、土壌や水源汚染の要因となる化学物質が多く使用されています。
1つは、殺虫剤や除草剤などの農薬。世界の耕作地のうち、コットン耕作地の面積はわずか2.1%にもかかわらず、世界の殺虫剤の16%、除草剤の7%がコットン栽培で使われています。農薬の過剰使用は、土壌の微生物が死滅したり、水に溶け込んで地下水が汚染されたりするなど、環境に大きな負担がかかってしまいます。
もう1つは、コットンの染料。成分のなかに重金属が含まれており、川や海を汚染する要因となっています。淡水の汚染の20%は織物加工と染色によるという調査結果も報告されています。
また、これらの化学物質を吸い込んだり、触れたりすることで、コットン農家や周囲の生き物の健康被害も発生しているのです。
*参考:WWF JAPAN,NPO法人 日本オーガニックコットン協会
サステナブルコットンとは?
さまざまな犠牲の上で栽培されているコットンですが、環境へ配慮されたコットンも存在します。それは「サステナブルコットン」とよばれ、働く人の労働環境を改善し地域の環境負荷を抑えたコットンです。
サステナブルコットンには、いくつか種類がありますが、ここでは3種類のコットンについてご紹介します。
オーガニックコットン
「オーガニックコットン」の栽培には化学物質の使用が最小限に抑えられているため、環境と人に優しいコットンといえます。国が定めた認証機関を通して、オーガニックな農法で栽培されているかどうか審査を受けます。以下の基準をクリアして、初めてオーガニックコットンと名乗ることができるのです。
- 健康被害と環境負荷を考慮して、化学薬品の使用を最小限に抑えているか
- 労働者の健康・安全に配慮されているか
- 児童労働を禁止しているか
通常のコットンよりコストや手間のかかるオーガニックコットンは、コットン全体の生産高のわずか1%にしか過ぎません。
ですが近年、世界的なSDGsの意識の高まりでオーガニックコットンが注目されるようになりました。生産高も19~20年度で24万9153トンと過去最高となり、増加傾向にあります。無印良品など日本企業でも取り扱われるようになってきました。
*参考:日本オーガニックコットン協会,世界の有機綿生産高 19~20年度は4%増で過去最高|繊研新聞社,【アパレル業界の真実】オーガニックコットンの知られざる「6つの事実」|TABI LABO
BCIコットン
「BCIコットン」はBCI(Better Cotton Initiative)が定める基準に沿って認定された綿花生産者が栽培したコットンです。BCIは、adidas、GAP、IKEA、H&Mなど、世界的な繊維業界の大手が協力して立ち上げました。
オーガニックコットンとは異なり、全てのサプライチェーン*1において、認証機関の定めた厳格な基準をクリアする必要はありません。コットン栽培の環境負荷を減らしながら、農家の生産性を適切に改善していくプログラムを通して、コットン生産全体でサステナブルな基準を満たすことを目的としています。
すでに世界のコットンの4分の1がBCI認証のもとで生産されており、今後もコットン生産のサステナブルな基準のひとつとして広がっていくでしょう。
*1 商品が消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのこと
*参考:コットン・アップ
リサイクルコットン
「リサイクルコットン」とは、紡績工場や縫製工場で廃棄予定だった裁断くずや落ち綿(糸を作る工程で発生した綿の短い繊維)を再利用したもの。繊維レベルにまで細断された後、新しい糸として生まれ変わります。新しいコットンの消費を抑えられるため、環境にやさしいコットンといえます。
サステナブルコットンを使った取り組みを紹介
サステナブルコットンを使った取り組みについて、コットンの種類別にご紹介します。
オーガニックコットン
(1)しまなみコットンファーム
しまなみコットンファームは数少ない日本の綿花栽培農家です。その上、スーピマ綿やスビン綿を取り扱っており、これは世界の綿花の数%にしか流通していない最高級品種。化学物質は一切使用せずひとつひとつ手で丁寧に収穫されたコットンは、タオルやストールの素材として使用されています。
*参考:しまなみコットンファーム
(2)無印良品
無印良品では、2018年より衣料品にすべてオーガニックコットンを使用。2019年秋冬商品からは、生活雑貨に用いられるファブリックについても全てオーガニックコットンに切り替わっています。
繊維長が35mmを超えるコットンは超長綿とよばれ、丈夫で手触りの良い理想のコットンです。商品開発者は超長綿の生産量を少しずつ増やすために、実際にコットン農場へ足を運び、農家との関係を深めています。
*参考:株式会社良品計画
BCIコットン
(1)IKEA
IKEAは2010年にWWF(世界自然保護基金)とともに持続可能なコットンの調達を推進するBCIを設立しました。2015年9月1日以降、IKEA製品に使用する綿はすべて、リサイクルコットンか農薬の使用をおさえたコットン栽培を行う調達先から仕入れたものになっています。
*参考:IKEA
(2)GAP
GAPは2016年にBCIに参加して以来、今となってはBCIコットン使用量が世界第3位に。2018年になるとGapが調達するコットンの40%以上が、BCIコットンとなりました。2025年までに「すべてのコットンをより持続可能性の高い供給源から調達する」と宣言しています。
*参考:GAP
リサイクルコットン
(1)BPLab
BPLabでは繊維製品の循環プラットフォーム「BIOLOGIC LOOP」を提供。不要になった繊維製品は、専用のボックスによって回収され、合成繊維と天然繊維に分別されます。コットンのような天然繊維は原材料へリサイクルされ、アパレルメーカーが買い取ることで再製品化も可能。
*参考:BPLab
(2)豊島株式会社
豊島株式会社は「服は国内で循環するもの」という新しい概念を作るために、2022年1月に「WAMEGURI(ワメグリ)」プロジェクトを開始しました。ライトオンと協業し、プロジェクトの第一弾商品として、不要となったコットン製商品を再利用して作られたデニムが誕生しました。
サステナブルコットンで人と環境に優しく
コットン栽培は環境に大きな負荷を与えるだけでなく、綿花農家の健康を奪う可能性があります。私たちが使うあらゆる生活用品にコットンが使用されていますが、自然環境や生産者に大きな負担をかけているのが現状です。
そんなコットン栽培の問題を解決するため、アパレルメーカーを中心にサステナブルコットンの普及を進めています。
私たち消費者にできることは、意識的にサステナブルコットンを使った商品を選択すること。それが未来の地球と人の健康を守ることにつながるでしょう。