食品ロスは世界的に注目されており、喫緊の課題のひとつです。また食品ロスは飲食店や小売店以外にも、学校給食での食べ残しや残さによる廃棄も問題となっています。
この記事では、学校における食品ロスの現状をはじめ、食べ残しの主な原因や対策方法、実際に行われている自治体の取り組みなどを解説します。
学校での食品ロスの現状
環境省によると、全国の市区町村教育委員会を対象として平成27年1月に実施したアンケート調査から、児童・生徒1人あたりの食品廃棄物は年間で約17.2kgもあるとの結果を示しました。
ちなみに、一般的な食品ロスは食べられる部分を廃棄してしまうことを指すのに対して、食品廃棄物は肉・魚の骨や果物の皮など、食べられない部分も含みます。
食品廃棄物の内訳を見てみると、食べ残しが7.1kg、調理残さが5.6kg、その他が4.5kgとなっています。
食べ残しの割合が最も多く、市区町村における残食率の平均値は約6.9%でした。ちなみに調理残さとは、食品関連の施設で調理の際に出る生ごみや古い揚げ油などを指します。
近年世界的に注目されているSDGsの観点からも、学校給食から大量に発生している食品ロスの問題は早急な対策が必要です。
学校で食品ロスが発生する原因
小・中学生の子どもたちが学校給食を残す主な理由には「嫌いな食べものがある」「量が多すぎる」「給食の時間が短い」といったものが挙げられます。それぞれの原因を詳しく解説します。
嫌いな食べものがある
給食を残す原因として最も多いのが、好き嫌いによる食べ残しです。特にピーマンやにんじん、トマトなどの野菜類、グリーンピースや納豆などの豆類、きのこ類が残されやすい傾向にあります。家庭でもこれらの食材を残す子どもは多いことでしょう。
嫌いな食べものが給食に出た場合は、嫌いな食材だけ取り除いて食べる子どもや、ほかの食材は食べられるものの、ゴーヤチャンプルのように全体に独特な風味が移っており手をつけない子どももいます。
また、酢の物のように刺激が強くて苦手、馴染みのないスパイスを使用していて香りが好まないといった理由で、食べ残しが起こるケースもあります。
量が多すぎる
子どもによって体格や活動量は異なるため、食べられる量はさまざまです。特に小学生は同じ学年でも体格の差が大きく、与えられた分をすべて食べ切れる子どももいれば、半分も食べられない子どももいます。また中学生になれば、男女で食べられる量に差が出てきます。
本来であれば自分が食べられる分だけ食べれば良いので、無理して全員が同じ量を食べる必要はありません。
しかし、配膳する際はなるべく同じ量を配るように指示されているケースが多く、あまり食べられない子どもは食べ切れずに残してしまいます。
給食の時間が短い
給食の時間が短いことも、食べ残しが起きる大きな理由のひとつです。時間割を見ると、給食の時間は45分程度確保されている学校が多い傾向にあります。
時間だけを見るとゆとりがある印象を受けますが、ここには給食を食べる準備の時間も含まれています。授業が終わり、すぐ準備に取りかかったとしても、配膳して全員が食べられる状態になるまでにはある程度の時間が必要です。
実際に食べる時間は15~20分程度になることが多く、食べるペースは人それぞれなので、子どもによっては食べたくても食べ切れないケースもあります。中には友達との会話に夢中になり、食べ終わらない子どももいるでしょう。
学校が食品ロス対策に取り組む必要性
学校が食品ロス対策に取り組むべき理由は「もったいない」「食べものを粗末にしてはいけない」という倫理的なものだけではありません。学校が食品ロス対策をするべき主な理由には、二つ挙げられます。
一つは令和元年に制定された、自治体の食品ロス削減に関する責務を定めた「食品ロスの削減の推進に関する法律」です。これにより、自治体は食品ロス削減推進計画を策定・実施しなければなりません。
二つ目は、SDGsの推進には食品ロスへの対策が欠かせないことが挙げられます。SDGsのなかでも、特に食品ロスとの関係があるのは「つくる責任つかう責任」を掲げる目標12のターゲット3です。内容は以下の通りです。
「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」
食品ロスによるごみの増加は焼却にエネルギーを費やし、大量の二酸化炭素を発生させるため、環境問題の悪化にもつながります。これらの点を踏まえると、大量の食品廃棄物が発生している学校でも、食品ロス削減に真剣に取り組まなければなりません。
学校が行っている食品ロス対策への取り組み
自治体のなかにはすでに食品ロス対策に取り組み、実際に成果をあげたところもあります。具体的な取り組みや成果を見てみましょう。
京都府宇治市の取り組み(給食準備時間の短縮・食育など)
京都府宇治市では、給食の食べ残しを削減するために10の取り組みを実施し、食品ロスの削減に成功しました。
主な取り組みには、給食を食べる時間を確保するための準備時間の短縮、好き嫌いを克服するための給食学習会・給食交流会の実施、食材ができるまでの苦労を知るための野菜の栽培などです。ほかにも、子どもたちに食品ロス削減を意識してもらうために新聞を作成したり、啓発イベントを実施したりもしています。
平成29年に宇治市が発表した結果によると、モデル校では準備時間の短縮に取り組むことで、以前と比較して食べ残しを65%削減できました。また給食学習会・交流会を実施したモデル校では、40%の削減を実現しています。
さらに全小学校に向けて新聞を作成・配布したところ、3カ月間にわたって1日あたりの平均食べ残しが20%削減されました。
宇治市では前年度の結果と反省点を活かし、改善しながら食品ロスの削減に取り組み実際に成果をあげています。これらの結果を見ると、本格的な取り組みを実施すれば給食の食品ロス削減も難しくないことがわかります。
茨城県取手市の取り組み(調理の工夫・リサイクルなど)
茨城県取手市では教育委員会や学校が協力しあい、食べ残しを減らすために給食の味付けや調理方法の工夫、リクエスト献立の推進、給食時間中の呼びかけなどを実施しています。
先述のアンケート結果にもある通り、給食を食べ残す原因は好き嫌いが大きく影響しているため、提供する献立の工夫が効果的です。
取手市が取り組んでいるのは、子どもたちの食べ残しを減らすための取り組みだけではありません。
調理用の油をそのまま廃棄するのではなく、他市と連携してバイオディーゼル燃料の原材料にリサイクルしたり、調理時に切りくずとして廃棄していた部分を献立に活用したりといった取り組みも行っています。
また、感染症の影響から学校が臨時休業になると、注文していた食材をキャンセルできないことがあります。そのような場合には、使い道がなくなった食材を保育所や福祉事業所に寄付したり、通常授業を実施しているほかの学校で活用したりしました。
学校で食品ロスを減らすためのポイント
廃棄する食品のリサイクルや食べ残しの原因に対する対処、食育など、学校で食品ロスを減らすためのポイントはいくつかあります。ここでは事例を参考に、具体的な対策を紹介します。
食べ残しや残さはリサイクルする
食べ残しを削減する「リデュース」だけでなく、食べ残しをできる限り無駄にしないように堆肥化や油の再利用といった「リサイクル」も重要です。
環境省の調査結果によると、学校給食で発生した食品廃棄物を飼料や肥料にして学校内外で活用している自治体は多くあります。
例えば、北海道音更町では給食の食べ残し・残さをJAに提供して液肥や発電に活用し、子どもたちが液肥を用いて農産物を栽培しています。このように、自治体と学校が一丸となり食品ロスの対策に取り組んでいるところも少なくありません。
それぞれの原因に直接的なアプローチをする
嫌いな食べものがある・量が多くて食べ切れない・給食を食べる時間が短いなど、食べ残しが発生する理由がわかっているため、それぞれの原因に直接アプローチするのも効果的です。
食べる量はクラス全員同じ量にするのではなく、ある程度自分で選べるようにすると食べられる量が少ない子どもも無理なく食べ切れるでしょう。
また、準備時間を短縮させることもポイントです。京都府宇治市では給食の準備時間をタイマーで計測し、10分以内に配膳を済ませるようにすることで食べ残しの削減に成功しています。
食育を徹底する
児童・生徒に対する啓発も必要です。給食の食べ残しがどの程度発生しているのか、食べ残しが増えるとどのような問題が発生するのかを伝えたり、教材を活用して食育の授業を行ったりしましょう。
例えば静岡県藤枝市では動画教材を鑑賞し、子どもたちが感想や意見を発表する場を設けています。また、食品ロスに対して自分ができることを考え、実行を促すためにチャレンジシートの作成を実施しました。
結果として給食を「よく残す」児童の割合が7.4ポイント減少し「全然残さない」児童の割合が3.1ポイント増加しました。
また学校内での食育だけでなく、家庭でできる食育や好き嫌いの克服を親が主導で行うことも重要です。
食品ロスを減らすためには家庭でできる取り組みも重要
学校の給食を食べ残すのは、好き嫌いや給食の量の多さ、食べる時間の短さなどが主な原因です。食品ロスはSDGsの観点からも対策すべき問題であり、自治体や学校ではさまざまな取り組みが行われています。
食品ロスを削減するには食べ残しの原因へのアプローチやリサイクル、食育などで対策するのが効果的です。また、食品ロス対策は学校だけでなく家庭でも行い、日頃の意識を変えるよう促しましょう。
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