フードロス削減に向けた各企業の取り組み事例や、背景にある想いを紹介するこのコーナー。今回は、2021年10月に「ジャイアントカプリコ<いちご>ふぞろい品」の販売を開始し、大きな反響を呼んだ江崎グリコの取り組みをクローズアップ。企画・販売を担当する同社マーケティング部の木下翔平さんに、発売までの経緯とフードロス削減にかける想いを伺いました。
発売50年超のロングセラー「ジャイアントカプリコ」のふぞろい品を初めて販売
香ばしいコーンにふんわりエアリーな食感のイチゴ味のチョコレートをトッピングした、江崎グリコの「ジャイアントカプリコ<いちご>」。1970年の発売以来、なんと50年以上もの間、老若男女を問わず親しまれてきた大ロングセラー商品です。
2021年10月に発売された「ジャイアントカプリコ<いちご>ふぞろい品」は、工場での製造過程でコーンが欠けてしまったり、チョコ部分に余分な空洞が生じるなどした「ふぞろい品」のジャイアントカプリコを10個詰め合わせたもので、希望小売価格は1箱735円。通常のカプリコは1本100円前後なので、200円以上お得な価格設定になっています。
―ふぞろいカプリコの販売は今回が初めてということですが、これまで、ふぞろい品はどのように処理されていたのでしょうか?
江崎グリコ株式会社マーケティング部 木下翔平さん(以下、木下さん):これまで弊社の良品基準を満たさない「ふぞろい品」については、コーンの部分は飼料にリサイクルし、チョコの部分は溶かして製品原料として再利用していました。しかし、この方法ではどうしても一定量の食品廃棄物が生じてしまいます。
そこで今回、ふぞろい品を無駄にせず、食品ロス問題解決の一助としたいとの願いから、初めてジャイアントカプリコのふぞろい品の販売を始めることとしたのです。もちろん、「ふぞろい」なのは形だけで、美味しさはそのまま。ふぞろいなカプリコをそれぞれの個性としてイメージしてもらえるよう、実物のふぞろい品を表示したパッケージデザインに仕上げました。
―販売に至るまでに、どんな点に苦労しましたか?
木下さん:最も苦労したのは、良品基準の再設定ですね。ふぞろい品であることをご理解いただいた上でご購入いただくにしても、どの程度までの「ふぞろい」なら商品として許容されるのか、社内で何度も議論を重ねました。
また、見た目だけで選別していると、お客様に食べていただける容量が減ってしまうおそれがあるので、改めて容量基準を設け、それを上回る商品だけを「ふぞろい品」として販売する体制を整えています。
「美味しければ問題ない!」若い世代から予想を大きく上回る反響が。
紆余曲折を経て完成した「ジャイアントカプリコ<いちご>ふぞろい品」は、2021年10月22日から発売をスタート。国民的人気を誇るジャイアントカプリコのふぞろい品が初めて販売されるとあって、販売開始直後から話題を集め、各メディアでも大きく紹介されました。
―発売から約2か月が経ちましたが、消費者の皆さんの反応はいかがですか?
木下さん:期待以上にポジティブに受け止めていただくことができ、「美味しければ、形が揃っていなくても問題ない」「お得に買えて嬉しい」というお声を多数いただいています。予想外だったのは、10代、20代のいわゆるZ世代の皆様からの高い評価をいただいたこと。
「すごく良い取り組み!」「ふぞろいでも美味しい」といったコメントとともに、ふぞろいカプリコの写真をSNSに投稿していただいた例もありました。環境課題の解決に強い問題意識を持つ若い世代の皆さんに、グリコのフードロス削減の取り組みを知ってもらえたことは、弊社にとって非常に大きな収穫だったと思います。
―企業イメージの向上に繋がっていくことも、期待されますね。
木下さん:そうなると嬉しいですね!もうひとつ、期待しているのは、ふぞろいカプリコが食品ロス問題を知る「きっかけ」となることです。ふぞろいカプリコのパッケージには食品ロス問題について、小さなお子さんにもわかりやすい平易な説明文を掲載していますので、親子でジャイアントカプリコを食べながら、食品ロス問題について話し合ってもらえたらいいなと思っています。
2030年までにフードロス95%削減を目指して
実は江崎グリコは、創業時から食品廃棄物の活用に長けた企業。創
以来、一貫してフードロス削減の取り組みを継続してきましたが、2021年3月に策定した「Glicoグループ環境ビジョン2050」で、食品廃棄物を2030年までに2015年比で95%にまで減らす目標を掲げ、取り組みの強化を宣言しました。
―ふぞろいカプリコの商品化の他には、どんな取り組みをしているのでしょうか?
木下さん:グリコでは食品廃棄物を、①工場などの生産設備から生じる「フードロス」と、②製品の売れ残りや食べ残しから出る「フードウェイスト」の2つに分けて、それぞれ削減に向けた取り組みをしています。
まず、①のフードロス削減策として、全工場をあげてリサイクルレベルの質的向上に取り組んでおり、これまで熱源としてのリサイクル(サーマルリサイクル=廃棄物を焼却する際の熱エネルギーを利用するリサイクル)にとどまっていたものを、燃料として再利用するほか、肥料や家畜の飼料として再利用しています。
例えば、ポッキーやプリッツを生産する神戸工場から出たカカオ豆の皮を、隣接する事業所内保育園の菜園で肥料として使い、収穫した野菜を園児たちの昼食に出すことによって、園児たちの食育の機会にもつなげています。このようにリサイクルレベルを燃料→肥料→飼料へと上げていくことによって、廃棄物を「食べられるもの」に変えていくことに、食品メーカーとして大きな喜びを感じています。
一方、②のフードウェイスト削減については、製品の売れ残りが出ないように需給業務の精度向上に努めているほか、製法や包材を工夫して賞味期限の延長を実現することによって、廃棄される商品を減らす取り組みを行っています。
例えば、2021年9月にリニューアル販売した飲料「アーモンド効果TASTY」は、包材を変更したり、風味劣化の原因となる酸化を防ぐ製法を採用したりすることにより、賞味期限を従来の22日間から60日間に延長することに成功しました。
―おいしく飲める期間が長くなって、しかも廃棄量が減らせるとは、素晴らしい取り組みですね。賞味期限といえば、江崎グリコでは日付まで表示するのをやめ、年月表示に切り替えているそうですが、どのような狙いがあるのですか?
木下さん:賞味期限とは、おいしく食べられる期限のことであり、この期限を過ぎたらすぐに食べられなくなるというものではありません。
江崎グリコでは製造管理や品質管理を徹底し、商品グループごとに賞味期限を設定していますが、菓子やレトルト食品など賞味期限が長い商品については、品質劣化のスピードが遅く、消費段階で日付管理をする意味が乏しいと考えられるため、従来は日付で表示してきた賞味期限を年月表示に切り替えています。
これによって、店頭で日付の古い商品が売れ残ってしまったり、賞味期限として表示されている日付が過ぎてしまったりしたら、すぐに商品が廃棄されてしまうのを防げるようになりました。また、日付表示をやめたことによって、製造や配送、販売の現場で商品を日付単位で細かく管理する必要がなくなり、物流の効率化にも繋がりました。
「食品メーカーによるフードロス削減」のロールモデルを目指して
このほか、2020年には包括連携協定を締結している大阪府からの要請で、コロナ禍で営業を中止したイチゴ狩り農園の余剰イチゴをジャイアントカプリコの原材料として活用するなど、自治体とタッグを組んだ取り組みにも挑戦。
また、消費者のコミュニティサイト「with Glico」では、フードロス削減をコンセプトにしたファンミーティングを開催したり、家庭の食品ロス削減に役立つアイデアレシピをテーマにした「ゴチたんグランプリ」を開催するなど、フードロス問題に対する消費者の意識向上に繋がる活動を積極的に展開しています。
―身近な食品メーカーであるグリコが自ら率先してフードロス問題の解決に取り組むことによって、消費者の皆さんにどんなインパクトを与えたいと考えていますか?
木下さん:これまで食品ロス問題は、主に小売りや飲食業界での取り組みに注目が集まっていました。しかし、実はグリコのようなサプライチェーンの上流にある食品メーカーも、食品ロス問題の解決に貢献すべく様々な取り組みを行っていることを知っていただきたいですね。そして、消費者の皆様お一人おひとりにも、この問題に対する当事者意識をもって、私たちグリコと一緒に問題解決に向けたアクションを起こしていただきたいと願っています。
と言っても、何か大掛かりなことをしていただきたいというわけではなく、例えば「グリコのふぞろい商品を食べたことがきっかけで、他のふぞろい食品(野菜や果物など)も買うようになった」とか、「ゴチたんグランプリのメニューを作って、食品を使い切った」という方が増えたら、とても嬉しいですね。
―「フードロス95%削減」の実現に向けて、今後はどんな取り組みを予定していますか?
木下さん:引き続き、グリコグループ全体で情報共有と連携を強化して、本来リサイクルできる原材料を無駄にしていないかどうか精査し、リサイクルの質の向上に取り組んでいきます。また、リサイクルだけでなく、これまで廃棄していた原材料を使った商品の開発についても前向きに検討しています。
例えば、大きな可能性を持つ原料として注目しているのは野菜ジュースの製造過程で出る野菜の搾りかすです。搾りかすといっても、食物繊維などの栄養が豊富に残っていますから、これを活用した商品ができないか・・・など、知恵を絞っているところです。
私自身、この事業を担当するようになって実感しているのは、「余りものには福がある」ということ。これからも、長年食品メーカーとして培ってきたノウハウや知見を活かして「余りもの」の中に「福」を見出す取り組みを続け、削減を実現していきます。そして、「食品メーカーによるフードロス削減」のロールモデルとされるような事例をどんどん発信していきたいですね。
そしてそれを他の食品メーカーの皆さんにも、どんどん真似していただいて、業界全体でフードロスの削減、ひいては地球環境問題の解決、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。
―木下さん、貴重なお話をありがとうございました!ちなみに「ジャイアントカプリコ<いちご>ふぞろい品」は、どこで購入することができますか?
木下さん:2021年12月現在、グリコの直営店「ぐりこ・や」の一部店舗(ぐりこ・やkitchen東京駅店、ぐりこ・やダイバーシティ東京プラザ店、ぐりこ・やユニバーサル・シティウォーク大阪店、ぐりこ・やekimoなんば店、ぐりこ・や道頓堀店、ぐりこ・や通天閣わくわくランド店、ぐりこ・や三木サービスエリア店)と、新大阪駅ぐりこ・やコーナー(駅マルシェ新大阪内)で販売しており、今後は、通販チャンネルでの販売も予定しています。
2つとして同じものはできない世界に1つだけのふぞろいカプリコ、ぜひ、一つひとつの個性を楽しみながらお召し上がりください!ただし、製造過程で偶然に生じる「ふぞろい品」という商品の特性上、計画的に製造することができないので、品切れの場合もあることをご理解くださいますよう、お願いします。
「お菓子」という、生活を楽しくしてくれるアイテムだからこそできるやりかたで、子どもにもフードロスの大切さを伝えている江崎グリコさん。
「環境課題の解決には、負ではなく前向きなイメージで取り組みたい」と語るグリコさんには、若年層の意識も底上げするアイデアで、これからもみんなで取り組めるグリコらしい企画をどんどん発信していっていただきたいと思いました!楽しみにしています。