廃棄されるはずだったものに新しい価値を与え、消費者に新しい「楽しさ」と「社会貢献」を同時に提供する場、木更津コンセプトストア(KISARAZU CONCEPT STORE、以下「KCS」)。KCSの取り組みは、サステナビリティへの意識が高まる中で、多くの企業や消費者の関心を集めています。
今回は、KCSを運営する三井不動産株式会社(以下「三井不動産」)の伊藤さん、同ストアに初期から参画する株式会社ユナイテッドアローズ(以下「UA」)の鈴木さんに、KCSの魅力、サステナビリティへの想い、そして協業が拓く未来について伺いました。
▼話を聞いた人
株式会社クラダシ
ブランドソリューションカンパニー 須貝ひなた
2024年に新卒社員として株式会社クラダシに入社。
UAが共鳴した「新しい価値」
クラダシ:
本日はお集まりいただきありがとうございます。まず、KCSの立ち上げ背景と、UAさんが参画された経緯についてお聞かせいただけますでしょうか。
KCS伊藤さん:
「訳アリ」を新しい価値に変える、全く新しいコンセプトの商業施設です。準備期間は長く、本当にスタートの段階からUAさんにはアプローチさせていただきました。単に商品を販売するだけでなく、お客さまが「楽しいお買い物」を通じて社会課題に触れることができる場を目指しています。
UA鈴木さん:
三井不動産さんとは、アウトレット施設をはじめ、多くの商業施設で長年深いお付き合いをさせていただいています。お話を聞いた時からKCSの新しいコンセプトには純粋に面白さを感じましたし、三井不動産さんだからこそ実現できると確信していました。
木更津という立地も、既存のアウトレットに弊社の店舗もあるため馴染み深く、お客さまにとってもアクセスしやすい距離だと感じています。これまで弊社は外部に委託しての販売はあまり取り組んではきませんでした。KCSの理念と三井不動産さんの熱意に共感し、喜んでこのお取り組みをお受けさせていただきました。
「楽しい」を大事に。ユニークな店づくりで服選びを宝探しへ
クラダシ:
私たちはフードロス削減に取り組んでいますが、衣料品の廃棄問題も非常に大きな社会課題だと認識しています。UAさんにとって、訳アリ品などの在庫を外部に販売委託することは大きな変化だったかと思います。懸念はありませんでしたか?
UA鈴木さん:
確かに、以前は、お客さまに完璧な状態の商品をお届けすることが正義でしたし、「訳アリ品」という言葉にはネガティブなイメージがつきものでした。しかし、時代の変化とともにお客さまの価値観も多様化しています。「訳アリ」であってもその理由や背景にあるストーリーに共感し、品質には問題ないのであれば、手に入れたいというニーズが高まっていると感じています。
これまでUAは、外部への販売委託に積極的ではありませんでした。自社の商品が知らないところで販売や最終的に廃棄されてしまう可能性があることに懸念があったからです。しかしKCSは、「捨てない」ことを前提とした取り組みであり、その理念に安心感を覚えました。 KCSのようなコンセプトの施設が常設されるタイミングで、私たちが参画することは自然な流れだったと感じています。
KCS伊藤さん:
私たちも「訳アリ」という言葉が持つイメージをポジティブなものに変えていきたいと考えています。品質には全く問題がないけれど、さまざまな理由で通常販売が難しくなった商品に、新しい出会いの場を提供することがKCSの使命のひとつです。UAさんのような企業が参画してくださることで、そのメッセージはより強く発信されると期待しています。
クラダシ:
KCSの店舗では、ブランドの垣根を越えた陳列方法が非常にユニークだと伺いました。
UA鈴木さん:
はい、初めて見たときは本当に驚きました。ブランドや会社の枠を完全に取り払い、コンセプトやテーマで商品を構成する見せ方は、私たち自身も多くのブランドを扱ってはいますが、ここまで思い切ったものは他にありません。まさに「やりすぎなくらい」のブランドミックスで、他では絶対に真似できないKCSさんならではの価値だと感じています。お客さまの「素敵な場所がある」といったお声も、既存店のメンバーを通じて耳にしています。
KCS伊藤さん:
とても励みになります。単一のブランドだけではできないこと、それこそがKCSの価値だと考えています。普段手に取らなかったブランドとの出会いや、新しいコーディネートの発見など、お客さまにとって宝探しのようなワクワクする「楽しい」体験を提供したいのです。社会貢献やサステナビリティは「正しいこと」ではありますが、それだけでは継続が難しい。それぞれの商品の魅力を最大限に引き出しつつ全体の調和を保つため、KCSの世界観のすり合わせは丁寧に行いました。お買い物の楽しさと社会貢献が自然に結びつくような空間は、多くの人にとってアクションを起こすきっかけになるはずです。私たちも、知るだけでなく、行動に移すことのハードルを下げる工夫を常に考えています。
「楽しい」が共感を呼ぶイベントの共創
クラダシ:
「楽しい」という要素は非常に重要ですね。KCSでは単に商品を販売するだけでなく、イベントなども積極的に行われていますね。UAは、「SARROWS(サローズ)」というサステナビリティ活動も推進されていていますね。KCSと共に実施した『服の文化祭』は、「SARROWS(サローズ)」として初めて対外的に展開したイベントであり、大盛況だったと伺いました。商品のやり取りが中心だった企業間の関係性が、イベントを企画・運営できるようになったことに、どのような手応えや喜びを感じていらっしゃいますか?
UA鈴木さん:
はい、サステナビリティへの取り組みは、以前から愚直に続けてきました。「SARROWS」という名前を掲げて本格的に発信を始めたのは、時代の流れに後押しされた面も大きいと感じています。KCSへの参加も、こうした活動をかたちにするうえで重要な一歩でした。これまで積み重ねてきたものを、これからはより積極的に社会へ還元していきたいと考えています。
KCS伊藤さん:
まさに、そのイベントは私たちにとっても非常に象徴的なものでした。UAさんのような先進的な企業と、単に商品をお預かりするという関係を超えて、同じ方向を向いてひとつのイベントを創り上げられたことに、大きな喜びと手応えを感じています。「SARROWS」の理念とKCSの目指すところが深く共鳴し、お客さまにもその想いが伝わった結果があの盛況ぶりだったのではないでしょうか。これまで見えにくかった企業の「想い」や商品の背景にある「ストーリー」を、イベントという体験を通じて具現化し、お客さまと直接共有できるのは、KCSという場の大きな可能性だと再認識しました。まさに、以前お話しした「ものをただ飾るだけではないコミュニケーション」が実現できた瞬間でしたね。
クラダシ:
今後の展望についてお聞かせください。KCS、そしてUAは、どのような未来を描いていますか?
KCS伊藤さん:
「買うこと」が社会参加に変わる、新しい商流をKCSから発信していきたいです。お客さまがKCSで楽しくお買い物をすることが、自然と社会課題の解決に繋がる。そんな共感を呼ぶ空間でありつづけたいですね。今後は、ファッション業界だけでなく、さまざまな企業を巻き込んだ体験型企画もさらに充実させ、新しいお客さまとの出会いを増やしていきたいと考えています。
UA鈴木さん:
KCSでの経験は、私たちにとっても非常に貴重なものです。お客さまの反応をダイレクトに感じられることは、今後のSARROWSも含めた取り組みにも大きなヒントを与えてくれます。KCSという場を通じて、より多くの方にUAの価値観や取り組みを知っていただき、ファンになっていただけたら嬉しいです。他の企業さんにも、ぜひこの素晴らしい取り組みに参加していただき、一緒にファッション業界を盛り上げていきたいですね。
クラダシ:
KCSさんのような取り組みは、消費者の意識を変える大きな力を持っていると感じます。一点ものの商品との出会いや、背景にあるストーリーを知ることで、物を大切にする行動が広がりますね。最後に、KCSをまだ訪れたことのない方々へメッセージをお願いします。
KCS伊藤さん:
木更津は都心からのアクセスも良く、開放的な雰囲気の場所です。まずは気軽に遊びに来ていただき、KCSならではの自由な空気感の中で、心からお買い物を楽しんでほしいです。きっと新しい発見や出会いがあるはずです。
UA鈴木さん:
KCSでは、普段のUAの店舗とはまた違った商品の魅力や、新しいコーディネートの楽しさを発見していただけると思います。一点ものも多いので、宝探しをするような感覚でお買い物を楽しんでいただけると思います。お気に入りの一着を見つけに来てください。
「楽しい」が生まれる舞台裏は、廃棄されるはずだったものに「新しい価値」を与えるというKCSの革新的なコンセプト、そして社会貢献を「楽しい」買い物体験に昇華させる空間づくりにありました。そこでは、KCSとUAのように、単なる商品の取引関係を超え、サステナビリティという共通の理念のもとにイベントなどを「共創」し、企業同士が業界の垣根を越え連携している。それぞれの想いや商品のストーリーを共有することで、消費者の共感を呼び、モノを大切にする意識やサステナブルな行動が当たり前になる未来を描いています。
【KISARAZU CONCEPT STORE アクセス情報】
▽住所:
〒292-0009 千葉県木更津市金田東3丁目1-1(三井アウトレットパーク 木更津 南側すぐ)
▽アクセス:
- 車でお越しの場合:東京湾アクアライン「木更津金田IC」より約5分
- 電車・バスでお越しの場合:JR「袖ケ浦駅」または「木更津駅」から路線バスで約10分
営業時間:10:00〜18:00(最終入場17:30)
※定休日は施設カレンダーをご確認ください
入場料:300円(うち一部が社会貢献活動に活用されます)