私たちの暮らしに身近なコーヒー。日本は世界で第4位のコーヒー消費国で、カフェやコンビニ、自宅でも手軽に飲めるほど浸透しています。しかし、その裏でコーヒーかすが毎日大量にごみとして捨てられていることはご存知でしょうか。
SDGsやサステナブルが浸透している近年、コーヒーかすのアップサイクルに取り組む自治体や企業が増えてきました。
今回は、そんなコーヒーかすをアップサイクルする取り組みを例に挙げ、私たちが自宅でも簡単にできる再利用の方法をご紹介。環境に配慮してコーヒーを余すことなく楽しむ活用術をお伝えします。
*参考:Coffee: World Markets and Trade|USDA
なぜコーヒーかすの廃棄が問題なのか?
日本のコーヒー消費量は年間約42万トン (2021年)。抽出後のコーヒーかすには、かすの重さと同量の水分が含まれるため、実際にはその倍の約85万トンのごみが発生しています。
この膨大なコーヒーかすを処分するためには、多くの埋め立て地や焼却エネルギーが必要です。さらに、長時間放置されて腐敗したコーヒーかすから、温室効果の高いメタンガスや二酸化炭素が発生する点も問題視されています。
*参考:全日本コーヒー協会、「コーヒーの豆かす素材」とは?食品廃棄物から多彩なグッズへ生まれ変わる万能素材で、サステナブルを実現|SUSPRO
コーヒーかすを再利用する自治体・企業の取り組み
そんなコーヒーかすを活用するために、自治体や企業ではコーヒーかすの堆肥化や、バイオマス燃料の開発に取り組んでいます。
コーヒーかすを利用した堆肥化
神奈川県農業技術センターでは、産地で廃棄される予定のスイカをコーヒーかすと混ぜて堆肥化する方法を開発。スイカの含水率は92~98%と高く、堆肥化は困難とされていますが、細かくスライスしたスイカにコーヒーかすとコーンの茎や葉を混ぜ合わせた結果、悪臭を発生させない肥料が生成されました。この肥料をコマツナの栽培試験に使用した結果、小松菜は良好な発育を示したのです。
スイカ以外にも、コーヒーかすを利用したダイコンやおからの堆肥化に取り組んでいる事例もあります。
*参考:堆肥化による屑スイカの農業利用技術の開発,コーヒー粕の農業利用|神奈川県
コーヒーかすをバイオマス燃料に
スターバックスコーヒージャパンは神戸市・近畿大学と共同で、コーヒーかすから植物由来のバイオマス燃料「バイオコークス」を開発しました (2016年)。
バイオマス燃料とは、動植物から得られるエネルギーを利用した燃料のこと。このコーヒー由来のバイオコークスは、従来の石炭燃料と比べて二酸化炭素の排出量が抑えられ、環境に優しいエネルギー源として期待されています。
バイオコークスの原料には木くず、茶葉、コーヒーかすが使用され、これらを粉砕した後に加温・加圧して圧縮成形されます。
モスバーガー&カフェでは、バイオコークスで焙煎したコーヒー豆が使用されているブレンドコーヒーとカフェラテが販売されています。
コーヒーかすのアップサイクル商品3選
コーヒーかすを活用したアップサイクル商品も販売されています。ここではおしゃれで機能的かつ環境に配慮したアイテムをご紹介します。
コーヒーかすで作られたチョコレート「COLEHA (コレハ)」
「COLEHA(コレハ)」は、コーヒーショップで廃棄されていたコーヒーかすをペースト状にして発酵させ、チョコレートにアップサイクルした商品です。「ごみを出さない商品開発」を理念とする有限会社ソーイと、地元沼津のコーヒーショップ(ライラック・コーヒー・ロースター)が連携して開発しました。
コーヒーかすが食品として生まれ変わるという新しい発想で、ドリップ後にごみをひとつも残さないゼロウェイストな商品です。また、ペースト状にしたコーヒーかすは「NEO COFFEE(ネオ・コーヒー)」としてドリンクメニューに。もう一度ドリップしてコーヒーとして飲むことができます。
「COLEHA(コレハ)」と「NEO COFFEE(ネオ・コーヒー)」は、ライラック・コーヒー・ロースターにて販売中です。
*参考:有限会社ソーイ,沼津でコーヒーかす再利用した食品販売 発酵技術で食べられるスイーツに|沼津経済新聞
コーヒーかすの繊維でつくられた「AirX コーヒーマスク」
「AirX コーヒーマスク」は、コーヒーかすの繊維から作られたフェイスマスク。二重構造のフィルターは抗菌加工が施されていて衛生的です。
コーヒー繊維は丈夫なので洗って繰り返し使用でき、環境にやさしく経済面でもメリットがあります。また、原料になるコーヒー豆は農薬や化学肥料を使わない有機栽培のものを使用。素材から製法まで環境に配慮された商品です。
マスクの他にも、コーヒーかすを再利用したさまざまな商品を開発しているプロントネットホールディングス (PNH)は、コーヒー由来のマグカップや家具などを販売しています。
*参考:AirX
コーヒーかすを生かした防水レインブーツ「PANTO」
クラウドファンディングを活用して、コーヒーかすから作られた世界初のレインブーツを製作したのが、チル・ジャパン株式会社です。ブーツには約15杯分のコーヒーかすが使用されており、すべてコーヒー業者から回収したもの。防水性と防汚性に優れているだけでなく、コーヒーの性質である脱臭効果が期待できます。
また、コーヒーかすをブーツへアップサイクルすることで、カーボンフットプリント(※1)を50%以上低減。商品の生産から廃棄するまでに発生する二酸化炭素の量を半分以上も削減することに成功しました。
レインブーツは8種類のカラーバリエーションがあり、それぞれ「ブレンドコーヒー」「カフェモカ」などコーヒーにちなんだおしゃれで可愛らしいネーミングです。
*参考:チル・ジャパン株式会社
自宅でできるコーヒーかすの再利用方法
おうちでコーヒータイムのあと、いつもはすぐに捨ててしまうコーヒーかすを自宅でも再利用できる方法があります。
天然の消臭剤として使用する
コーヒーかすには消臭効果があるといわれています。その理由は、コーヒー豆の表面に開いているたくさんの穴が匂いや水分を吸収してくれるから。UCCの調査によると、水分率が21%のしっとりしたコーヒーかすは、消臭の定番である活性炭の約5倍ものアンモニア吸収率があるとされています。
ただし、水分量の多いコーヒーかすを放置をしすぎるとカビ発生の原因になるため、1~2日での交換がおすすめ。手間を掛けずに消臭の即効性を求めたい人は、湿ったコーヒーかすで試してみてください。
交換する頻度を少なくしたい場合は、長期保存・長期使用できる乾燥状態のコーヒーかすを使用します。コーヒーかすの乾燥方法は、湿ったコーヒーかすを天日干しするか、もしくは電子レンジなどで加熱して乾燥させましょう。
十分に乾燥させたコーヒーかすは、1ヶ月以上も消臭剤として使用することができます。
*参考:抽出かすの活用方法,コーヒー抽出後の「かす」が脱臭剤・消臭剤に!? とってもエコな再利用術
堆肥にして植物や野菜を育てる
コーヒーかすだけでは窒素が微量に含まれているため堆肥としては使えませんが、発酵させたコーヒーかすを土に撒くことで、土壌を改善して植物が元気に育つ環境を整えてくれます。発酵させるために、あらかじめ以下の材料を用意しておきましょう。
- 乾燥させたコーヒーかす
- ダンボール
- 新聞紙
- 腐葉土
コーヒーかすが漏れ出さないように、ダンボールの中に新聞紙を敷きます。そこに、乾燥させたコーヒーかすと腐葉土を入れてよく混ぜ合わせましょう。
毎日かき混ぜることで、約1ヶ月後には発酵が完了し、コーヒーかすが堆肥として使用できるようになります。
*参考:コーヒー粕の農業利用|神奈川県,コーヒーのかすは肥料に再利用できる?ポイントはそのまま撒かずに〇〇すること|COFFEE TOWN
染料にしてコーヒー染めを楽しむ
Tシャツやマスク、トートバックなどをコーヒーかすで抽出した染料で染めると、ナチュラルでやさしいブラウンカラーになります。コーヒー染めの手順は以下の通りです。
まず、鍋に1リットルの水を入れて沸騰させたら、コーヒーかすを入れて染液を作ります。仕上げたい色の濃さに応じて、コーヒーかすの量を調整しましょう。
お好みの色に調整できたら、染液の中に布を入れ、約1時間浸けていったん取り出します。このままでは色が抜けてしまうため、染液の中にミョウバンと2リットルの水を入れて、色止めをしてください。再度染液に布を1時間浸けたら、水洗いと乾燥をさせて完成です。
*参考:【簡単】コーヒー染めでDIY|コーヒーを飲んだ後に楽しみたい!|COFFEE TOWN
コーヒーかすを上手に活用。環境にやさしいコーヒーライフを楽しんで
コーヒーの消費量が多く、毎日大量のコーヒーかすが廃棄されている日本。最近ではコーヒーかすを活用したアップサイクルの取り組みや商品が増えてきました。気になったものは実際に手に取ったり体験してみたりするのも、エコでサステナブルなアクションの一歩です。
コーヒーかすには消臭・堆肥・染料などさまざまな形で活用できる魅力がたっぷり。そして、自宅で淹れたコーヒーをすぐ捨ててしまうのはもったいないほどです。これからの暮らしは、コーヒーかすを余すことなく使って、環境にやさしく心も豊かになれるコーヒーライフを楽しんでみませんか?