スーパーで売られている食品に使用される植物油脂の多くが、「パーム油」であることはあまり知られていません。このパーム油があまり知られていない理由は、実際の商品ラベルにはパーム油ではなく「植物油」や「植物油脂」と表示されているからです。
現在、パーム油はすべての植物油脂の中で最も多く使用されており、年々生産量は増加傾向にあります。今回は、このパーム油の大量生産・大量消費が引き起こしている問題の解説と、私たち消費者にできることをご紹介します。
そもそもパーム油って何?
パーム油は、アフリカ原産の「アブラヤシ」という植物の実から得られ、いま世界で最も多く使用されている植物油です。
パーム油が使われている食品の例として、インスタントラーメンや冷凍食品の揚げ油、パンや焼き菓子に使われるマーガリン、ポテトチップスやチョコレートといったお菓子などがあります。また、食品だけでなくシャンプーや化粧品などにもパーム油が使われ、近年はバイオマス燃料としての利用事例もあるようです。
パーム油の生産量は世界で2億トン以上
日本植物油協会によると、2019/20年の植物油の生産量は2億854万トン。この内、パーム油が7,392万トンと最も多い割合で、その生産量は年々増えつづけています。
これは、パーム油が持つ優れた利点のためで、パーム油の需要は今後も増えていくと予想されます。
パーム油の利点とは? パーム油が多く使われる理由
パーム油の利点は以下のとおりです。
- 利点①:汎用性の良さ
パーム油は食品をはじめ、シャンプーや化粧品、燃料など多種多様な用途で利用できる。
- 利点②:生産性の高さ
1度植栽すると40年は高い生産力を維持でき、年間を通してパーム油の原料となる果実の収穫が可能。そのため、他の植物油に比べると生産性が非常に高い。
- 利点③:安全性の高さ
他の植物油と異なり、肥満や心筋梗塞の原因と考えられるトランス脂肪酸をほとんど出すことなく加工可能。
パーム油の生産によって引き起こされる環境・社会問題とは?
多くの利点を備え、広く利用されているパーム油ですが、生産量が増えるにつれて以下のような環境・社会問題も引き起こしています。
- 生物多様性の損失
アブラヤシ農園が広がり熱帯雨林の伐採が進むと、そこにすむ野生動物や生態系を脅かすことになる。絶滅の恐れがあるオランウータンやトラといった、大型哺乳類の存続も危惧されている。
- 気候変動
熱帯雨林の伐採や泥炭地の開発によって、二酸化炭素のような温室効果ガスが排出される。泥炭地とは、植物が分解しきらず堆積した土壌のことで、多くの二酸化炭素を貯蔵し、その量は世界中の森林が貯える二酸化炭素の2倍近くになるという。熱帯雨林の開発により泥炭地が破壊されると、貯蔵された二酸化炭素が排出されることになる。
- 農園で働く労働者の人権問題
農園で働く労働者の健康や安全への対策が十分でなかったり、低賃金で働かされたりといった劣悪な労働環境であることが報告されている。また、移民労働者への不当な扱いや、児童労働の人権問題も指摘されている。
パーム油の問題に対する取り組み
前述したような背景もあり、パーム油の問題への対策が求められています。ここでは、世界や日本の取り組みをご紹介します。
パーム油を持続可能にするための国際組織の設立
パーム油を持続可能な原料にするため、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)と呼ばれる国際組織が誕生しました。
RSPOは、パーム油による問題の解決に寄与する、国際的な認証基準を設けています。たとえば、「自然資源および生物多様性の保全」「農園で働く労働者や、影響を受ける地域住民への責任ある配慮」といったものです。
RSPOの認証マークが付けられた製品は、認証基準をクリアしたパーム油を使用したり、その生産に貢献したりした製品であることを示します。
*参考:WWF、日本サステナブル・ラベル協会、FoE Japan、熱帯林行動ネットワーク
アブラヤシ廃材を活用した再生木質ボード化技術を開発(パナソニック)
パーム油の原料となるアブラヤシの廃材の多くは、農園内に放置されて腐敗や分解が進み、その際に温室効果ガスを排出します。
この廃材を活用するためにパナソニックは、「PALM LOOP(パームループ)」という、再生木質ボード化技術を開発しました。アブラヤシ廃材を使ったベッドやソファなどの家具製品が、「株式会社 大塚家具」などから販売される予定です。
アブラヤシの廃材利用は、世界的な木材生産量が不足している中で、未利用資源の活用技術として期待されています。
*参考:パナソニック(1)、パナソニック(2)、林産試験場、フランスベッド、マルイチセーリング
代替油からのフライ麺作製に成功(日清食品)
日清食品は、新潟薬科大学との共同研究により、世界で初めて油脂酵母から出来た酵母油を使った、フライ麺の作製に成功しました。油脂酵母とは、細胞内に多くの油脂を生産・蓄積できるユニークな酵母のことで、産業的価値が高いと見込まれています。
油脂酵母から出来た酵母油は、パーム油と極めて近い性質を持ち、広大な土地を必要とせず、気候による影響も受けることなく安定した生産が可能です。そのため、パーム油に代わる油脂原料として期待されています。
パーム油の問題に対して私たちができること
ここからは、パーム油が引き起こす多くの問題に対して、消費者である私たちができることを3つ紹介します。
パーム油の問題に関心を持つ
1つ目は、パーム油が環境や社会に与える問題に関心を持つことです。それによって、日常生活においても商品の選び方に気を配るようになります。
たとえば「この商品にはどんな油脂が使われているのか」「使われているとしたら環境に優しいものなのか」といったことを考えるようになります。
また、環境・社会問題に関心を持つことで、新しい技術・製品が発表されたときにその背景についても理解しやすくなります。その結果、日々の消費活動も変わっていくでしょう。
*参考:ボルネオ保全トラスト・ジャパン
RSPO認証の環境に優しいパーム油の商品を選ぶ
RSPO認証のマーク
2つ目は、RSPO認証の環境に優しいパーム油を使った商品を選ぶことです。RSPO認証を受けた商品を積極的に選ぶことで、環境・社会問題に貢献する企業の生産活動を促し、問題の解決に役立てるでしょう。
日本でも、RSPOのマークが付いた商品が増えているようです。
*参考:WWF
日清食品の森をまもるカップヌードル
日清食品は、2020年2月から国内にある全工場で、RSPO認証パーム油の使用を開始しています。それによって、日清食品のメジャー製品であるカップヌードルにもRSPOの認証マークを付けられるようになりました。
現在では、サイズやフレーバー違いのバリエーション品を除く、レギュラー品のカップヌードルのパッケージにRSPOのマークを付けています。
創健社のRSPO認証のマーガリン
自然食品の企画開発や販売を行う創健社は、主力商品である「べに花ハイプラスマーガリン」や「発酵豆乳入りマーガリン」にRSPO認証のパーム油を使用しています。
べに花ハイプラスマーガリンは、無香料・無着色で食品のおいしさを損なわない、素材重視のマーガリンです。また、発酵豆乳入りマーガリンは、植物性乳酸菌で発酵させた豆乳が使われた製品であり、まろやかで口当たりの良い風味を楽しめます。
*参考:創健社
国内販売製品のすべてにRSPO認証が付いたサラヤの洗剤・シャンプー
洗浄剤などを取り扱う日用品メーカーのサラヤは、日本で初めてRSPO認証のパーム油を使った商品を販売しました。現在では、国内で販売する自社製品はすべて、RSPO認証を取得しているようです。
たとえば、植物性の洗剤である「ヤシノミシリーズ」が挙げられます。その名の通りヤシの実由来の洗剤で、香料や着色料が一切使われていない、人や地球に優しい製品です。種類としては、食器用や洗濯用のものから、手洗い用のものまでそろっています。
また、「ココパーム」と呼ばれるシャンプー用品などもあります。ココナッツ由来のココパームには、さまざまな美容成分が含まれており、髪と地肌にうるおいや艶を与える効果があります。また、南国を感じるシャンプーの香りは、洗うたびに幸せな気分にもなれそうです。
代替油が使われた商品を買う
3つ目は、代替油が使われた製品を購入することです。
日清食品が開発した代替油は、パーム油と近い性質を持つのに加え、広い土地を必要としません。そのため、パーム油の代替油としての利用が期待できます。
また、スコットランドのリバイブ・エコ社が開発した、コーヒーかす由来の代替油もあります。毎日出るコーヒーかすを利用することで、持続可能な代替油をさまざまな分野へ提供。たとえば、食品や化粧品、ファッション分野などに利用でき、その残りは天然の土壌改良剤としても活用できるようです。
*参考:WWF、日清食品、IDEAS FOR GOOD、Chivas Regal
毎日の消費活動を見直してみよう
パーム油は便利で優れた油ですが、さまざまな環境・社会問題を引き起こしています。しかし、日々の消費活動を変えることで、こうした問題の解決に貢献できます。まずは、パーム油に関心を持つことから始めて、毎日の商品選択を見直してみるのはいかがでしょうか。