日々食べ残しや売れ残りが捨てられているのは誰もが知る事実かもしれませんが、それがどういった諸問題に波及しているかは正確にイメージしがたいものです。
この記事では、農林水産省の推計値をベースに、日本の食品ロスの実態や問題点、食品の大量廃棄を引き起こしてきた意外な要因、さらにどういった対応策が成果を上げているのかを紹介していきます。
食品ロスとは?現状と要因
食品ロスとは、本来食べられる状態にも関わらず捨てられてしまう食品を指します。食べ残しはもちろんのこと、新品同然であっても商習慣などの事情で廃棄扱いになるものも食品ロスに含まれます。
ただし、骨や種などもともと食べられない箇所は含まれません。はじめに、こうした食品ロスに関わる日本の現状を把握し、どのような要因で食品ロスが生じているのかを整理していきましょう。
食品ロスの現状
農林水産省の資料に基づくと、令和2年度の日本全体の食品ロス量は約522万トンに達しています。大まかな内訳は、生産や運搬、レストランでの破棄などの事業系食品ロスが約275万トン、作りすぎや食べ残しなどの家庭系食品ロスが約247万トンで、事業系と家庭系では比較的拮抗した状態にあることが分かります。
この数値を国民1人当たりに換算すると、1日約113g、年間で約41kgの食品ロスとなり、日本に住む人全員が毎日お茶碗1杯分の米を捨てている状況です。
事業系食品ロスは、特に3つの業種に偏っており、最多が食品製造業の121万トン(44%)、2番目が外食産業の81万トン(29%)、3番目が食品小売業の60万トン(22%)となっています。
ただ、平成24年度以降に国が開始した推計の中では、こうした令和2年度の食品ロス量は最小値を記録しています。
食品ロスが発生する理由
なぜこんなにも大量の食品ロスが生まれるのでしょうか。
まず、家庭の場合は食べ残し、賞味期限切れや買いすぎによる直接廃棄、皮の剥きすぎなどの過剰廃棄が食品ロスの原因です。
事業系は業種により傾向が分かれます。外食産業では顧客の食べ残しや食材の仕込み過ぎが要因となり、食品小売業では店頭での売れ残りや納品期限切れ、輸送後の破損品などが挙げられます。
業種別で食品ロス比率が最も高い食品製造業のケースでは、規定の大きさに加工する過程で生じる廃棄部分(調理残さ)、型崩れなどによる規格外品や外箱の破損品が主な発生要因となります。
特に食品製造業の場合は、消費者視点ではあまり馴染みがない工程で、多量の食品ロスが生じている点が特徴的です。
食品ロスが引き起こす問題
こうした食品ロスは単に無駄が多いという表面的事象にとどまらず、未来の世代にも影響を与えうる広範囲な社会問題を引き起こしています。ここでは、特に注視すべき3つの課題、環境問題、食糧問題、経済問題について具体的な状況を説明します。
環境問題
食品を生産したり輸送したりする過程では、石油や電気をはじめとした多量のエネルギー消費を伴います。すなわち、食品ロスの大量発生は、その分エネルギーを無駄に費やし、自然環境への負荷を増大させてしまうのです。
さらに、膨大な食品ロスの埋め立てや焼却によって温室効果ガスが生じ、地球温暖化を助長させるおそれがあります。特に水分量が約80%を占める生ごみは燃えづらく、焼却時に温室効果ガスである二酸化炭素を水準以上に排出すると言われています。
家庭のゴミ処理方法で、生ごみの水切りをするよう勧められるのはこのためです。このように食品ロスの増加は、エネルギー資源の浪費や地球温暖化の進行など環境面に負の影響を及ぼしかねません。
食糧問題
農林水産省の令和2年度の統計によると、日本の「摂取カロリー」から見た食料自給率はわずか37%にとどまっています。この数値は先進国では最低水準となり、カロリーベースで自給率250%超えのカナダとの差は歴然としています。
国内で年間約522万トンの食品ロスが生じている状況を踏まえれば、食品の供給や流通の仕組みに改善の余地があることは想像に難くありません。また、世界規模でこの問題を見渡すと、世界の9人に1人(8億人相当)が栄養不足の状態にあると試算されています。
国連の推計値に基づくと、2019年時点で77億人だった世界人口は、2050年を迎える頃には97億人に達すると見られており、有効性のある対策が講じられなければ食糧問題の深刻化は必至の状況です。
経済問題
食品ロスをごみとして適正に処理するためにも相応の費用が発生しています。令和2年度におけるすべての市町村のゴミ処理経費は、実に2兆1,290億円にものぼり、平成25年度と比較しても2,780億円(約15%)の増額です。
日本国民1人あたりの経費に置き換えると、年間16,800円の負担となり、同じく平成25年度比では17%増とハイペースで上昇しています。
もちろん、ごみ処理費用を完全になくすことはできませんが、本来は食べられるはずの食品(食品ロス)に対して廃棄費用が発生しているのは、明らかに余計な負担が国民に課されている状況です。
厳しい財政事情の下、限りある税収をより有益な使途に割り当てるためにも、食品ロスの現状を見直す行動が求められます。
食品ロス削減に関する日本の目標
農林水産省は、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」も踏まえながら、2000年度時点の食品ロス量980万トンを、2030年度までにトータル489万トンに半減させる目標を掲げました。
家庭系と事業系双方に対して取り組み、家庭系食品ロスは2000年度比(433万トン)で2030年度を目途に216万トンまで半減、事業系食品ロスは2000年度比(547万トン)で2030年度を目途に273万トンまで半減することを目指しています。
中でも事業系食品ロス削減を目標達成するため、異業種間の協働に加え、消費者も一帯となった機運醸成や行動変革など、多様なステークホルダーとの連携を徹底するよう基本方針が定められました。
食品ロス削減に向けた取り組み
多様なステークホルダーによる食品ロス削減に向けた行動が促進されるよう、主要な2つの法律「食品リサイクル法」と「食品ロス削減推進法」が制定されました。名称としては似通った印象を受けますが、制定時期が異なっており、法律が対象とする主体にも違いが見られます。
食品リサイクル法
2000年に制定された「食品リサイクル法」は、食品産業に対して、食品の売れ残りや食べ残し、製造・加工・調理過程で生じた残さ食品などの減少やその再利用への取り組みを促進する法律です。
同法の基本方針では食品ロスを含む食品廃棄物の発生抑制を優先事項に位置付け、対策を講じた上でリサイクル等を進めるよう推奨しています。
2007年には特に食品小売業や外食産業の事業者に対して、指導監督の強化と取り組みへの円滑化措置を講じるため一部改正が行われました。
食品ロス削減推進法
2019年に制定された食品ロス削減推進法(正式名称:食品ロスの削減の推進に関する法律)は、グローバル規模の食糧問題と自国の食料自給率の低さを念頭に置いたものです。
立場が異なる国民1人1人が食品ロス削減に向けて主体的に取り組み、社会全体として対応できるように促す法律です。
先述の「食品リサイクル法」は、あくまで食品関連事業者を対象とする法律ですが、同法の場合は国、地方公共団体、事業者、消費者といった多様な主体の責務を示し、関係者相互の連携及び協力を図る基本的施策が定められています。
食品ロス削減への包括的取り組みとして、食品を無駄にしないための教育や普及・啓発等の活動が含まれているのも特徴的です。
具体的な対策を見ていこう
紹介した2つの法律が定める枠組みをベースに、既に具体的な対策が実行に移されています。2023年度の半減目標達成に向けて確かな効果が期待される、5つの画期的な取り組みを見ていきましょう。
3分の1ルールの見直し
日本の食品流通の分野では、製造者(卸売も含む)、販売者(小売業者)、消費者の3者で製造日から賞味期限までの期間を3等分して割り当てる「3分の1ルール」という商習慣が存在してきました。
このルールに従うと、賞味期限6ヶ月の食品の場合、メーカーや卸売が納品できずに2ヶ月以上が経過すると、自動的に廃棄(返品)扱いになってしまいます。
しかし、令和2年度より「全国一斉商慣習見直し運動」として食品関連事業者への呼びかけを実施したところ、納品期限の緩和などに取り組む事業者の動きは順調に拡大しました。
農林水産省の資料によると、令和3年10月時点で186事業者が納品期限を緩和(または予定)し、令和元年の同時期と比べても2倍近くに増加しています。
賞味期限の延長
食品の品質保持技術が向上したことで、賞味期限を延長できるケースも増えつつあります。既に2012年度からは、商慣習検討ワーキングチームが消費者の理解を得ながら科学的知見により賞味期限の再検討を進めています。
令和3年度流通経済研究所の調査では、過去1年間に限っても、清涼飲料、菓子、レトルト食品など393種類の商品が賞味期限延長を実現し、近日中には733種類の商品も後に続く見通しです。
食べきり運動の促進
飲食店での食べ残しを軽減するため、食べきり運動が推進されています。
例えば、つい品数を多く注文しがちな宴会の場面では、適量の注文を心掛けるのを前提に、「乾杯後30分は席を立たず料理を楽しむ」「お開き前10分は席に戻って再度料理を楽しむ」といった消費者の留意事項を普及・啓発する運動を展開しています。
また、食べる量は個人差が大きいことから、店舗側に「小盛り」や「ハーフサイズ」メニューの導入を促すなど無駄の少ない食事環境づくりが進行中です。
ドギーバッグの導入
飲食店でやむなく食べ残したとしても、それを持ち帰る習慣を定着させることで食品ロスを減らす取り組みも注目されています。
食べ残しを持ち帰る袋や容器は主にアメリカ文化圏ではドギーバッグと呼ばれますが、ドギーバッグ普及委員会は日本でも親しみやすいネーミングをイベントで募集し、食べ残しを持ち帰る行為の呼称として「mottECO(もってこ)」が採用されました。
こうして食べきり運動で極力食べ残しを減らしつつ、残った場合も廃棄されない社会の実現を目指しています。
フードバンク活動の活用
もともとアメリカで長い歴史があり、ここ数年ようやく日本でも広がりを見せているフードバンク活動という取り組みがあります。食品業者や農家から未利用食品の寄付を受け、それらを必要としている個人や施設に提供する仕組みです。
農林水産省はフードバンク活動への支援を強化するほか、衛生管理や食品の提供方法の公正さが保たれるよう、フードバンク活動の手引きを公表するなど多方面からのバックアップを実施しています。
一人ひとりの意識が大切
食品ロス削減に向けて、道標となる法律が整備され、試行錯誤を重ねながら具体的な対策も浸透しつつあります。しかし、社会全体を新しい価値観に転換していくには、食品ロスは「もったいない」という一人ひとりの意識が欠かせません。
食品ロス削減の目標を早期達成できるかどうかも、私たちの日々の行動にかかっているのではないでしょうか。
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