Kuradashi 食のサステナビリティ共創・協働フォーラム 2023 開催報告

Kuradashi 食のサステナビリティ共創・協働フォーラム 2023 開催報告

「食のサステナビリティ共創・協働」フォーラムとは

株式会社クラダシが運営する「クラダシ基金」の活動のひとつに「食のサステナビリティ研究会」があります。その活動の一環として、2023年10月26日(木)に開催したのがこのフォーラムです。

今、「食」や「農」に関わるさまざまなサステナビリティ課題が注目されています。

世界では毎年、食料生産量の3分の1が消費されずに廃棄されている一方で、8億人が飢餓状態にあると言われています。2050年には世界の人口が97億人に到達すると予想されており、気候変動による異常気象や気温上昇が農業・水産業などの食料生産に大きな影響を与えるなか、世界的な食料危機が危惧されています。

また、日本の食料自給率は先進国中最低の水準であり、食料安全保障に課題を抱えています。さらに、新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ危機をきっかけに、食料生産・調達・流通のサプライチェーンリスクも浮き彫りになっています。

これらの多くの「食」の課題を解決するためには、各企業・官民で連携し、一丸となり解決に取り組む必要があります。このフォーラムでは、「食のサステナビリティ共創・協働」をテーマに、さまざまな取り組み・協働事例を発信するとともに、「食」の課題の認知向上と「食」の課題の解決に寄与する機会の提供を目指しています。

開催にいたるまで

2回目の開催となる今年は、昨年より多くの方に「食」の課題や取り組みについての情報をアップデートしていただくことと、参加者・登壇者間での交流を昨年以上に促進することを目指してプログラムを構築していきました。

そこで、「人的資本経営」・「サステナブルデザイン」・「B Corp」など、昨今を象徴するキーワードを切り口に加え、新たに次世代の食の課題解決に挑むスタートアップ企業を数社お迎えし、「食のイノベーション」というテーマのセッションも開催しました。さらに、講演・パネルディスカッションのみならず、展示ブースの設置やネットワーキングも開催しました。

食の課題を解決していきたいとの理念にご共感いただいて、三井不動産株式会社をはじめとする多くの企業にご協賛・ご支援をいただきました。また、「食」「サステナビリティ」というテーマで第一線で活躍されている方々にご登壇いただきました。

▼ご登壇者の皆さま(順不同)

  • 夫馬 賢治 氏(株式会社ニューラル CEO/信州大学特任教授/AGBIOTECH株式会社社外取締役)
  • 藤江 太郎 氏(味の素株式会社 取締役 代表執行役社長 最高経営責任者)
  • 山口 恭子 氏(株式会社明治 人財開発部 部長)
  • 徳谷 智史 氏(エッグフォワード株式会社 代表取締役社長)
  • 藤川 宏 氏(キリンホールディングス株式会社 執行役員/CSV戦略部長)
  • 櫻庭 英悦 氏(高崎健康福祉大学特命学長補佐・農学部客員教授)
  • 森 隆志 氏(雪印メグミルク株式会社 常務執行役員)
  • 大楠 絵里子 氏(ダノンジャパン株式会社 コーポレートアフェアーズ本部長)
  • 吉田 啓一 氏(株式会社博報堂 MDコンサルティング局 マーケットデザインコンサルタント)
  • 佐藤 友亮 氏(株式会社博報堂 第五ビジネスデザイン局 部長 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 ビジネスデザイナー)
  • 太刀川 英輔 氏(NOSIGNER(ノザイナー)代表 / JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会)理事長)
  • 名和 高司 氏(京都先端科学大学教授 兼 一橋大学ビジネススクール客員教授)
  • 矢野 玲美 氏(株式会社ハバリーズ 代表取締役)
  • 広川 学 氏(株式会社グリーンエース 代表取締役)
  • 中村 慎之祐 氏(DAIZ株式会社 取締役営業推進部長)
  • 村田 靖雄 氏(オイシックス・ラ・大地株式会社 /Future Food Fund株式会社 ファンドマネージャー)
  • 矢野 健太 氏(株式会社パンフォーユー 代表取締役)
  • 福沢 悠月 氏(株式会社マチルダ Co-Founder COO)
  • 相木 孝仁 氏(株式会社ベイシア 代表取締役社長)

プログラムの詳細はこちら

フォーラム当日の様子

会場参加・アーカイブ配信を合わせて、前回を上回る700名弱の方々に参加お申し込みをいただき迎えた当日。会場では計360名の方々にセッションやネットワーキングにご参加いただき、さらに交流の場も設けることができました。「食」のサステナビリティという共通の課題意識やパーパスを持つ人たちが一堂に会し、会場は熱気に満ちていました。

講演・セッション

食品業界とサステナビリティ

いまや、国際社会でエネルギー業界と並び、サステナビリティが危惧される二大テーマのひとつとなった食品業界。社会の関心事はどこへ向かっているのか。長期展望を捉えたときに、食品業界にとってどのようなゴールが求められていくのか。国内外の最新の動向をまとめてお話しいただきました。【夫馬 賢治 氏】

味の素グループのASV経営~サステナビリティの推進~

味の素グループは、今年進化させた志(パーパス)の実現に向けて、社会価値と経済価値を共創する取り組み=ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)の実行力をあげています。そのための無形資産強化の取り組み、特に人的資本の強化施策などをサステナビリティの取り組み事例とともにご紹介いただきました。【藤江 太郎 氏】

これからの食品業界に向けた人的資本経営の挑戦

近年話題となっている人的資本経営。日本の食を支える食品業界にとっても必要不可欠な経営のキーワードです。バズワードで終わらせないために、業界をリードする各社の考え方や事例をお伺いしながら、次世代の食品業界のあり方についてディスカッションしていただきました。【山口 恭子 氏・徳谷 智史 氏・藤川 宏 氏・徳山 耕平(クラダシ)】

環境とフードシステム

食を巡る社会、経営・経済、環境等の諸課題を解決するためには、「生産-加工・流通-消費」を担う主体(企業等)の相互関係を一つのシステムとしてとらえ、幅広い視点から分析する必要があります。近年、環境課題(金融、税制、ESG等)が山積し、目まぐるしく企業活動の与件変動が起こっている中でフードシステムの担い手のあるべき方向性を解説していただきました。【櫻庭 英悦 氏】

食の持続性の実現~共に考える 酪農乳業の未来~

2025年に創業100周年を迎える、雪印メグミルクグループ。次の100年に向けて、現代の社会課題である「食の持続性の実現」に向けた取り組みを進めるなかで見えてきた、酪農乳業の大きな課題についてご共有いただきました。【森 隆志 氏】

サステナブルな未来を創るパーパス経営とB Corpの可能性

サステナブルな企業活動を行ううえで、今、なぜパーパスが重要なのか、パーパス・ウォッシュを避けるために何が必要かについてディスカッションしていただきました。また、B Corp認証取得企業であるダノン・ジャパンとクラダシの事例を通じて、具体的なアプローチを紹介し、パーパスドリブン経営を支援する博報堂の知見もご共有いただきました。【大楠 絵里子 氏・吉田 啓一 氏・佐藤 友亮 氏・中野 奈緒子(クラダシ)】

進化思考〜気候変動と食の持続可能性についてのデザイン〜

オーガニックファームのブランディングなどさまざまなプロジェクトを手がけてきたデザインストラテジストの太刀川 英輔 氏。彼の提唱する自然の原理から持続可能な創造性を学ぶ「進化思考」は、ユネスコでの講演や台湾デザインミュージアムでの展示など、世界各国での出版によってムーブメントを起こしつつあります。この講演では、食の持続可能な未来をテーマに、新たな食産業の可能性についてお話しいただきました。【太刀川 英輔 氏】

食と社会のイノベーション

「食べることは生きること(We are what we eat)」。食べ物を無駄にしないことは、未来の私たちの「生きる」に直結します。フードロスの削減は、持続可能な未来を創るうえで、1丁目1番地です。「消費」者から「生活」者への意識革命、そして「サプライチェーン」から「サステナブルサークル」への発想の転換が求められているのではないか―。そんな問いかけについて語っていただきました。【名和 高司 氏】

持続可能なフードシステムへのソリューション

リサイクル可能な紙パック入りのミネラルウォーターを展開するハバリーズ、おいしい植物肉「ミラクルミート」を開発・販売するDAIZ、農産物アップサイクルに取り組むグリーンエース。気候変動への対策や資源の最大活用という持続可能なフードシステムにとって必要不可欠なテーマに、イノベーションや技術で取り組むスタートアップ3社の挑戦について深堀りしていただきました。【矢野 玲美 氏・広川 学 氏・中村 慎之祐 氏・村田 靖雄 氏】

食の未来を拓く身近なイノベーション

地域のパン屋さんが抱える課題を独自の冷凍技術とITで解決するパンフォーユー、家庭料理のテイクアウトステーションを展開し、子育て家庭の食卓をサポートするマチルダが登壇。持続可能性と利便性の融合による食の社会課題解決の新たなアプローチやフードロス削減の仕組みをご紹介いただきました。【矢野 健太 氏・福沢 悠月 氏・河村 晃平(クラダシ)】

展示

書籍販売・情報コーナー

このフォーラムにもご登壇いただいた夫馬 賢治 氏、櫻庭 英悦 氏の著作を販売。その他、サステナビリティ経営・人的資本経営に役立つ資料などを配布しました。

協賛企業による展示

三井不動産株式会社が支援するEarth hacks × 味の素のプロジェクトをはじめ、株式会社エービーシースタイル、象印マホービン株式会社などのアップサイクルやフードロス削減の先進的な取り組みをご紹介しました。

コーヒー・スナック提供

無料でお楽しみいただけるコーヒーポットやスナック提供サービスをご用意しました。セッションの合間の休憩とともに、展示ブース見学や他の参加者の方とのお気軽な交流をお楽しみいただきました。

 ネットワーキング

30分間の座談会ののち、登壇者・参加者の方々との情報交換をお楽しみいただきました。また、Kuradashiが「チカバキッチン東京八重洲」とコラボレーションし、玉乃光酒造株式会社の酒粕パウダーなどのもったいない食材を活用したお食事とドリンクをご用意。食のサステナビリティをご体験いただける場になりました。

座談会
食品サプライチェーンのイノベーション

サステナブルな食品サプライチェーンの実現に向けて、小売業の役割、産業連携、生活者も含むステークホルダーへの期待に焦点を当てます。ベイシアという小売企業が果たす役割と、食のサステナビリティへの取り組みの紹介を通じて、私たちができる具体的な行動について座談会形式でご共有いただきました。【名和 高司 氏・相木 孝仁 氏・関藤 竜也(クラダシ)】

料理
このフォーラムでは、食品企業や自治体と連携してもったいない食材を活用した料理をご提供しました。


①酒粕パウダー

2023年で創業350年を迎える玉乃光酒造は、いい素材だけを使い、「誠実」な酒を造ることを目指しています。もろみから日本酒を絞る際に発生する副産物である「酒粕」は、栄養素を豊富に含んでいる一方で、日本酒を造る際に継続的に発生するため、100%活用するには課題が残っていました。そこで、酒粕も無駄にせず活用することを目指しています。ネットワーキングでは国産鶏の酒粕味噌焼きを提供しました。

②規格外野菜を使ったドレッシング(グリーンエース「Salad on Salad」)

フードロスの削減を目指して2015年から粉砕技術の研究開発に取り組んできたグリーンエースが作るSalad on Salad は、いつものサラダをもっと手軽に、栄養たっぷりにしてしまう新しい調味料です。定番の調味料に野菜を足すことで、野菜の風味を感じることができるだけでなく、食物繊維やビタミン、ミネラルといった野菜の栄養も摂ることができます。

③みんなでつくったかすみがうら市の梨ピューレ

果樹栽培の盛んなかすみがうら市は、県内有数の梨の産地として長い歴史を持っています。その中でも特に収穫量の多い「豊水」は、栽培の過程で果肉が軟化する「蜜症」と呼ばれる症状がでることがあり、食しても問題はないがシャキシャキとした食感が劣るため出荷できず廃棄せざるを得ないことも多く深刻な問題となっています。
この課題解決を図るためにかすみがうら市では、産学官連携でフードロスの削減と地域創生に取り組んでいます。

振り返り

昨年の第1回から、コンテンツ量も参加者数も増えましたが、開催終了後の平均満足度は4.3点(5点満点)で、83%の参加者に「非常に満足・満足」とご回答いただけました。「食のサステナビリティが徐々に広がっているのを実感した」「時間が短く感じるくらい有意義だった」という嬉しいお言葉も頂き、食のサステナビリティに関わる課題と取り組みについての認知拡大を実現できたと実感しています。

今後に向けて

第3回のフォーラム開催については、今回の学びや反省を生かして、より実りあるものを創っていきます。
これまで同様、企業間および官民連携で食の課題に向き合うための「食のサステナビリティ研究会」の活動も継続していきます。具体的には、食のサステナビリティ課題についての情報収集および食品関連企業への発信、交流機会の提供をすべく、勉強会やフォーラムを開催していきますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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