2021年の年末から2022年の年始にかけて、牛乳の廃棄問題が話題となりました。栄養価が高く、学校給食の定番としてはもちろん、家庭で愛飲している人も少なくない牛乳。しかし、コロナ禍において需給バランスが崩れたことで牛乳の大量廃棄が懸念されることとなりました。そこで、本記事では牛乳廃棄問題の原因や各企業の取り組み事例、私たち消費者にできることをご紹介します。
2021〜2022年の牛乳廃棄問題とは
農林水産省は、2021年12月17日に「2021年の年末から2022年の年始にかけて、牛乳が大量に廃棄される恐れがある」と発表しました。試算された廃棄量は、なんと5,000トンです。一般社団法人Jミルクによると、2020年の1人あたりの牛乳消費量は、25.4リットル。したがって、廃棄量5,000トン=およそ20万人分となります。
そこで、農林水産省は牛乳の消費拡大に向けて「NEW(乳)プラスワンプロジェクト」を開始しました。「毎日牛乳をもう1杯飲もう」というコンセプトのこのプロジェクトでは、芸能人と農林水産省の職員とのコラボや牛乳を使った和食「乳和食」の周知を推進しています。
なお、岸田文雄首相による異例の呼びかけ、各企業の取り組みや個人の意識の高まりが功を奏し、2022年1月7日、農林水産省は「牛乳消費が伸び、5,000トンの廃棄は回避できた」と発表しました。
*参考:農林水産省、一般社団法人Jミルク
牛乳の廃棄が懸念された原因
牛乳の廃棄が懸念された背景には、3つの原因があります。
①コロナウイルスの影響による需要減少
2019年まで、家計調査における牛乳の消費量は横ばいから上昇傾向にありました。しかし、コロナウイルスの影響が拡大した2020年3月から、学校の一斉休校などによって消費量は大幅に下落。2021年の年末においても需要減が続いたため、牛乳の消費が落ち込んだと考えられます。
※出典:新型コロナウイルス感染症による家計消費の変化と日本経済へのインパクト(経済産業省)
②冬休みに伴う牛乳の消費量の減少
一般的に学校給食の飲み物といえば牛乳をイメージすると思いますが、年末年始は冬休みに入るため、牛乳の消費は毎年落ち込みます。また、冬は寒さから一般家庭での牛乳の消費も減少するので、年末年始の牛乳消費量は減少してしまうのです。
③コントロールが困難な生乳の生産量
牛乳の生産に欠かせない「搾乳」は、乳牛の病気を防ぐために毎日継続して実施する必要があり、一時的な中断などが出来ません。生乳の生産量はコントロールが困難なため、需要が落ち込んでいると分かっていても生産を止めることが出来ないのです。
牛乳の大量廃棄を回避するための各社の動き
農林水産省の発表を受けて、下記のような企業や自治体が牛乳の大量廃棄を回避するための施策を実行しました。
- KURADASHI
- コンビニ(ローソン、セブンイレブン、ファミリーマート)
- 株式会社 イトーヨーカ堂
- 株式会社 明治
- 北海道の弟子屈町(てしかがちょう)
それぞれの施策を紹介します。
1. KURADASHI
KURADASHIは、フードロス削減のため、 低価格で商品を販売する社会貢献型ショッピングサイトです。牛乳の消費を増やすために特設サイトを開設し、牛乳と一緒に使用できる商品をまとめました。カフェオレにできるコーヒーや牛乳で仕上げるスープといった商品を販売しており、 幅広く牛乳を楽しめます。
2. コンビニ(ローソン、セブンイレブン、ファミリーマート)
①ローソン
ローソンは、2021年12月31日から2022年1月1日の2日間限定で「ホットミルク」を半額で販売しました。通常130円のところ65円で販売しており、2日間の販売量は約135トンに上ったと発表しています。ちなみに、 ローソンのルーツは「ミルク屋さん」で、今回の牛乳廃棄問題にも積極的だったそうです。
②セブンイレブン
セブンイレブンは、2021年12月25日から2022年1月5日までの間、プライベートブランドの牛乳1Lを20円引きで販売しました。地域にもよりますが、およそ170円(税抜)となり、いつもよりお得な価格で購入ができました。
③ファミリーマート
ファミリーマートは、2021年12月28日から2022年1月10日の間、「FAMIMA CAFE」を購入した人にカフェラテLサイズなどに利用できる30円引きレシートクーポンを発券。「FAMIMA CAFE」のカフェラテには生乳100%のミルクが使用されているため、牛乳消費量の拡大に貢献しました。
3. 株式会社 イトーヨーカ堂
イトーヨーカドーは、2021年12月25日から2022年1月3日の間、対象の牛乳とハウス食品の「フルーチェ」を同時購入した場合に、30円引きになる企画を実施。飲用としての牛乳だけではなく、食品に使える方法として販売を促進しました。
*参考:朝日新聞デジタル
4. 株式会社 明治
明治は、牛乳ではなくチーズの販売に注力。2021年12月13日から2022年1月の期間限定で、生乳100%のチーズ4種類を販売しています。農林水産省のプロジェクトの一環として、商品には「プラスワンプロジェクト」のロゴが記載されています。
*参考:食品新聞
5. 北海道の弟子屈町(てしかがちょう)
北海道にある弟子屈町(てしかがちょう)では、無料で牛乳と交換できる引換券が全世帯に5枚ずつ配られました。1枚の引換券で牛乳1リットルと交換できるので、最大で5リットルが無料になります。弟子屈町は酪農が盛んで、地元農協が積極的に牛乳の消費を促しました。*参考:NHK
毎年4,700トンの牛乳が廃棄されている
農林水産省の呼びかけや各企業・自治体の協力で、年末年始における牛乳5,000トンの廃棄は回避できました。しかしながら、毎年4,700トンもの牛乳が廃棄されている事実を忘れてはいけません。
日本のフードロスの半分は家庭から排出されており、株式会社オレンジページのアンケートでは、捨てがちな食品の1位が「牛乳・乳製品」でした。日常的な牛乳の廃棄を減らすために、消費する工夫が消費者に求められます。
※出典:オレンジページくらし予報(株式会社オレンジページ)
一般社団法人 Jミルクの「New-Washoku」では、牛乳を飲む以外の消費方法として、牛乳を使った塩分が通常の約半分のお味噌汁、肉じゃが、ぶりのミルク塩こうじ焼などが紹介されています。
最近では、種となる好みのヨーグルトを入れた牛乳パックをセットするだけで、自家製ヨーグルトを楽しめるヨーグルトメーカーも販売されています。
食品以外では、牛乳からつくられるプロミックス繊維を用いた衣料品もあります。廃棄される牛乳からもつくられるので、間接的に牛乳廃棄の防止につながります。
また、フリーランスデザイナーの村上 結輝 氏は、牛乳からつくられたカゼインという接着剤とコーヒーかすから製作したランプシェードやプランターといった製品を販売しています。
*参考:DIAMOND online、Cafe au late Base
一人ひとりが意識して牛乳を飲もう
2021年の年末から2022年の年始にかけて、牛乳廃棄問題が話題になりましたが、多くの消費者の協力で廃棄は回避されました。しかし、牛乳は、日常的に大量に廃棄されています。
今回、牛乳の廃棄が話題になったことを一時的なものと捉えずに牛乳を消費するのはもちろん、牛乳を活用した食品や製品を購入するのもよいでしょう。まずは、誰でもできる「いつもよりコップ1杯だけ」牛乳を多く飲むことから始めてはいかがでしょうか。