アフリカのスラムを支援するファッションブランド「SHIFT 80」代表に聞く、世界をシフトさせるためのアクション

アフリカのスラムを支援するファッションブランド「SHIFT 80」代表に聞く、世界をシフトさせるためのアクション

2022年2月21日、新たに誕生したファッションブランド「SHIFT 80」。世界をシフトさせるというコンセプトのもと、アフリカの女性デザイナーや日本の紡績・縫製工場とタッグを組み、分配可能な利益の80%以上をアフリカに還元するブランドです。

今回は、そんな「SHIFT 80」の代表 / クリエイティブディレクターを務める坂田ミギーさんにインタビュー。「SHIFT 80」に込めた想いや、アフリカのスラムの現状、現地の子どもたちの教育支援、ブランドを通じて出来るアクションなどについてお話を伺いました。

坂田ミギーさん プロフィール

旅マニア / エッセイスト。広告制作会社、博報堂ケトルを経て独立。世界一周の旅などを経て、現在は利益の80%以上をシェアするアパレルブランド「SHIFT 80」代表 / クリエイティブディレクター。著書に『旅がなければ死んでいた』『かわいい我には旅をさせよ ソロ旅のすすめ』。

「SHIFT80」の存在意義は世界をシフトさせること

――2022年2月21日からスタートした「SHIFT 80」ですが、その名前に込めた意味を教えてください。

坂田ミギーさん(以下、坂田さん):
「SHIFT 80」には、1年間の運営で生まれる分配可能な利益の80%以上をアフリカに還元することで、世界をシフトさせていきたいという意味を込めています。

売上の「一部」を還元する形だと「どれくらい還元するか」が明確ではないので、「SHIFT80」では明確に80%以上と定めているんです。

――アフリカの中でも特に、ケニアのナイロビにあるキベラスラムの支援に力を入れていると伺いました。キベラはどんなスラムですか?

坂田さん:
キベラは、アフリカで最大級といわれる人口100~200万人のスラムです。ケニアの大都会ナイロビのすぐ隣のような立地で、高速道路の建設のために撤去されるエリアがあったり、人の入れ替わりが激しかったり、変化を続けているスラムですね。

――坂田さんは約40ヶ国を旅されてきたそうですが、キベラに関わることになったきっかけやその印象を教えてください。

坂田さん:
世界中を旅していてもスラムには行ったことがなくて、キベラが初めてでした。現地のスラム住人の方が開催するツアーに参加したり、現地の方と知り合って少しずつキベラスラムの中を歩くようになったんです。

それまではスラム街に対して、みんな目もうつろで生きる希望もなくて……という暗いイメージを持っていたんですね。でも、実際はすごく活気があるし、一生懸命に商売や工事をしている人、遊んでいる子どもたち、井戸端会議をしているお母さんなど色々な人がいて。

それですごく興味を持ちましたし、自分は何も知らなかったんだなと思ったんです。それからは約1ヶ月間、3日に1回くらいのペースでキベラスラムに通いました。

――スラムの住人自身がツアーを開催するんですね。それは、観光収入を得ることが目的なんでしょうか?

坂田さん:
もちろんそれもありますが、「キベラについて知ってもらいたい」という気持ちの人が多いですね。みんなキベラは好きなんだけれど、やはり課題が多いので、ツアーを通して「どうして自分たちがこういう暮らしをしてるのか」「自分たちが何に困っているのか」などを発信しているんです。

――そうした現状を変えていくにあたって、いま一番大きな課題はなんでしょうか?

坂田さん:
私はやはり教育だと思っています。子どもが教育を受けて自分で考える力をつけて、どうすれば商売や仕事ができるか、どうすれば収入を得られるかを考えるには、教育が必要だからです。

お金がなければ学校に行けないし、学校に行けないと家にいてやることがないので、ドラッグやギャングのスカウトなどの悪い誘いも寄ってきます。そして学校をドロップアウトしてしまう子も多いので、学校に通うことがコミュニティ全体、ひいてはケニアや世界のためにもなると思うんです。

生理があるから学校に行けない、女の子のハンディキャップ

――キベラスラムの学校はどのように運営されているんですか?

坂田さん:
大きな学校として「マゴソスクール」という私立のプライマリースクールがあります。「SHIFT 80」のデザイナーでもあるリリアン・ワガラさんが作った学校なんです。

彼女は早くにご両親を亡くして、色々な仕事をしながら18人の弟妹を養っていく中で、貧しい子どもこそ教育を受けなければならないと思ったそうなんです。それで、自分の家を寺子屋のようにして子どもを招き入れて学校を始めたんですね。

その活動が評価されて支援が集まり、正式にマゴソスクールという学校になって、今では500人の生徒が通っています。私もマゴソスクールの運営をサポートしているんです。政府からの援助は十分ではないので、日本をはじめ各国からの支援金やリリアンさんの収入がマゴソスクールの運営費になっています。

――日本がいかに恵まれているかを実感しますね……。「SHIFT 80」では生理用品の配布など、女の子の支援にも力を入れていますよね。学校に通う女の子たちのハンディキャップは大きいですか?

坂田さん:
女の子は、生理用品がない状態で生理になると1ヶ月のうち1週間ほど休まざるを得ないので、成績が上がらないんです。それで生理用品を配りはじめました。

生理用品を配布した結果、女の子たちの欠席日数はほぼゼロになり、成績は去年の時点で11%も上がっています。

さらに、生理用品がないと学校に行けないので、50円の生理用品ほしさに売春をする子も少なくありません。男性が生理用品を持って売春を持ちかけるんです。毎年20%ほどの女の子が妊娠してドロップアウトしていたのが、生理用品の配布を始めてからはゼロになりました。

――子どもたちの教育を支援するという観点では男女関係ないけれども、現実問題として女の子の方がより大きなハンディキャップを抱えているんですね。デザイナーのリリアンさんのように手に職をつけるための支援などもされているんですか?

坂田さん:
そうですね。リリアンは独学で縫製や服のデザインを学んで、今はそれで暮らしができているので、マゴソスクールでも職業訓練の機会を作っています。

アフリカではヘアサロンの需要があるので髪結いを練習したり、チャパティ(薄焼きパン)やマンダジ(揚げパン)を作るクッキングクラスをしたり。

お裁縫が好きなのか、料理が好きなのか、髪結いが好きなのか、はたまた医者や弁護士になりたいのか……自分のやりたいことを見つけるチャンスを作れるようにしているんです。

アフリカと日本、両方を支援するブランド

――「SHIFT 80」と他のエシカルなファッションブランドとの違いはどこでしょう?

坂田さん:
投票で支援の意思決定に参加できることと、支援の結果をレポートとしてお届けすることが、他のブランドとの大きな違いです。

「SHIFT 80」の服の裏地のタグにはQRコードがついていて、それをスマホで撮ると投票ページに行けるようになっています。分配可能な利益をどんな支援に使ってほしいか、服を買ってくれた方ご自身が選べるようになっているんです。

女性の支援や孤児・障害児の支援、貧困児童の学費の支援、あるいは全部……がボタンで選べます。投票結果は1年後に取りまとめて、投票の割合によって分配可能額を振り分けていくんです。そんな風に「関わってもらえる余地」を作っています。

――参加できることが「SHIFT 80」ならではの特徴ということですね。実際に服を買ってくださった方からの感想はありますか?

坂田さん:
1万円するTシャツは買ったことがないと皆さん口をそろえて仰るんですが、実際に着てみて「こんなに違うんだ」と言ってくれる方がいて、それは嬉しかったですね。

ウガンダから調達した100%のオーガニックコットンを、ゆっくりゆっくり、1時間に1メートルしか編めない和歌山県の古い編み機で編んでいます。糸に負荷をかけずに編めるので、ふっくらしていて、洗濯しても肉厚で気持ちのいい生地に仕上がります。

――たしかに、なかなか手を出しにくい価格かもしれません。ただ、そんな風に作られているとか、きちんと手入れすれば長く着られることが分かれば納得できますね。

坂田さん:
気に入って長く着ていただけたらと思いますね。あとは、服が不要になったら回収するサービスも導入していて、返していただいた服はまだ着られそうであればクリーニングやリメイクをして再販しますし、どうしてもダメな場合はリサイクルしようと思っているんです。

――それもある意味では「シフト」ですよね。アフリカのスラム支援ができるブランドというだけではなく、良いものを作っているとか、責任をもって長く使える服を作っているという点では、あらゆる意味でSDGsだと感じます。

坂田さん:
アパレルは石油産業に次いで世界で2番目に環境によくない産業だと言われているので、作っている私たちにも、着ていただく皆さんにも責任があると思うんです。作る側の責任として出来ることは可能な限りやっていけたらなと。

メイドインジャパンの会社さんも少なくなっていますよね。「SHIFT 80」では、糸を作るところから日本でやっています。でも、紡績会社も日本にはあと少ししか残っていないんです。日本で紡績をするとコストが合わないという側面はありますが、それでも良いものを作っていただけますし、そうした技術がもっと評価されるといいなと思います。

「ブランドがなくなること」を目指す

――最後に、坂田さんご自身、そして「SHIFT 80」がこれから目指す未来について教えてください。

坂田さん:
私自身の一番の目標は、貧困や女性であることを理由に諦めなくていい、未来を自分たちで切り開いていける社会をつくることです。ブランドとしては、そもそも「SHIFT 80」がなくてもいい世界を作りたいと思っています。「役目を終えて、ブランドはなくなりました」というのが一番の目標です。

――日本では当たり前の「教育」や「就職」といったチャンスをアフリカにも作る活動をされている坂田さんを見ていると、バイタリティや行動力があると感じます。何が源泉になっていますか?

坂田さん:
アフリカの現地で、元気な人たちを見ているからかもしれませんね。スラムという絶望しそうな環境の中で、「あれがしたい」「これがしたい」と常に前向きな彼らからパワーをもらっているので、自分を触媒として彼らのパワーを日本に伝えたいという気持ちもあります。

――前向きな空気の中で、坂田さんご自身も自然と前向きになっている。そしてそれが「SHIFT 80」というブランドにもたくさん表れているんですね。本日はありがとうございました。

 

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