サステナブルな伝統工芸品に再注目!自宅でできる草木染めの方法もご紹介

サステナブルな伝統工芸品に再注目!自宅でできる草木染めの方法もご紹介

「サステナブル」や「SDGs」が盛んに謳われるようになった近年、ファッション分野でも新たな取り組みが行われています。

そのなかでも、日本人が古来から受け継いできた「草木染め」が、天然染料をつかったサステナブルファッションとして、いま注目されていることをご存じですか。

今回は、天然染料をつかった日本の伝統工芸品について解説しながら自宅で実践できる天然染料を用いた染物の方法もご紹介していきます。

染料には「天然」と「合成」の2種類がある

染料とは、水に溶けて布や紙などの繊維に染み込んで染まる性質をもつ色の原料です。染料に対して、水に溶けず印刷インクや絵具などに用いられる原料は顔料と呼ばれています。染料は古くから衣服を染めるのに用いられ、動植物から取れる「天然染料」と 有機化学合成によって人工的に作られる「合成染料」の2種類に分けられます。

天然染料とは

天然染料には、藍や紅花などの植物を使う植物由来の「植物染料」と、貝紫やサボテンにつくカイガラ虫などの貝類・昆虫由来の「動物染料」の2種類があります。

このような天然染料は古来より貴重なものとされてきました。日本では縄文時代から、植物の葉や花、貝紫などを用いて染色されていたことがわかっています。天然染料の中でも、貝を由来とする紫は特に貴重で、数千匹から数万匹の貝からたった1グラムの染料しか作れないため、とても高価だったのです。

しかし、天然染料は植物や動物由来のため手間がかかり、合成染料に比べて100倍以上のコストがかかってしまいます。衣類の大量生産・大量消費の時代に入ると、一度に効率よく染めることができる合成染料が主流となっていきました。

参考:IN YOU journal,草木染めと合成染料(化学染料),草木染めとは?|ののはな草木染アカデミー,土に還る服|株式会社村田染工

合成染料とは

石炭や石油などを原料として合成された染料で、化学染料と呼ばれることもあります。合成染料は1856年にイギリスの科学者ウィリアム・パーキンによって発見されました。

その後、さまざまな合成染料が開発され、代表的な合成染料として「アリザリン」(茜の色素)や今でも大量に使用される「合成インディゴ」が挙げられます。

現在は、多様な色の表現が可能になり、流通している衣類のうち99.99%に合成染料が使われています。

*参考:IN YOU journal

合成染料は環境や人体への影響が問題視されている

衣服の染色には、「綿染め」「糸染め」「生地染め」「製品染め」という4つの工程があります。この染色工程では、大量の水で合成染料を洗い流していて、綿1kgを染色するのに100〜150Lの水が必要といわれています。

また、染色工程で排水される水は適切に処理されていないこともあり、そのまま河川に流れてしまうことも世界で問題となっています。この排水される水には、人間の健康に害を及ぼす可能性のある化学物質が含まれています。

合成染料の中で最も使用量の多いアゾ染料は、自然界では分解されにくく、その一部には人間に対して発ガン性があると報告されています。

*参考:Tシャツの製造工程,ファッションと環境問題,環境省令和2年度ファッション,ファッションと環境」調査結果2020,独立行政法人 製品評価技術基盤機構,ジーンズ色いろ

天然染料で染め上げられる日本の伝統工芸品

天然染料で染められた染物の多くは伝統工芸品となっていますが、もともと染物は私たちの暮らしに根付いたものでした。古来から脈々と技法が受け継がれてきた染物についてご紹介します。

阿波藍染(藍染)

藍染とは植物染料の藍(タデアイ)を用いた染物で、平安時代までは高貴な色として貴族の間で着用され、戦国時代になると縁起の良い色として武士に好まれ着用されていました。

染色を重ねるたびに、薄い水色から黒に近い紺色まで多彩に表現することができる藍色。日本の藍の色名は豊富で、「甕覗き」「濃藍」「縹色」など藍染から生まれたものが多くあります。

藍染めの元となるのは、藍の葉を発酵させて作られる「すくも」。徳島で生産された​すくもは「阿波藍」と呼ばれ、全国で使われるすくものほとんどが徳島で作られています。​その伝統は現在まで引き継がれてきました。藍染した染物には、​抗菌・防虫・防腐・防臭・保温・紫外線遮蔽など、さまざまな効用があります。

*参考:藍の歴史と文化|藍の情報サイト【藍】~藍のある暮らし,藍とは? | 徳島の藍 | AI / TOKUSHIMA,藍染とは|日本全国工芸百科事典|中山政七商店の読みもの,阿波藍染とは|これいい和

大島紬

鹿児島県奄美大島に伝わる染物「大島紬」。世界で唯一、この奄美大島だけでおこなわれている「泥染」で染められています。

泥染では、奄美大島に自生するバラ科のシャリンバイの樹皮を煮だして、糸や生地に染み込ませます。その後、鉄分を含んだ泥田に布を浸して、泥をすり込ませます。すると、染料に含まれている色素成分と鉄分が結び付いて深みのある黒茶色に染まります。この作業を何度も手作業で繰り返し、大島紬独特の風合いに仕上げます。

大島紬は、フランスの「ゴブラン織」、イランの「ペルシャ絨毯」と並び世界三大織物に数えられる日本が誇る伝統工芸品です。150〜200年経っても身に着けることができる丈夫な織物と言われ、世代を超えて愛されています。

*参考:大島紬について|奄美大島紬村・大島紬製造工場観光庭園,奄美「大島紬」を支える伝統技法「泥染め」とは。|中山政七商店の読みもの

黄八丈

東京から南方へ約300キロ離れたところにある八丈島では、コブナグサというイネ科の植物でつくられた黄金色の染物が作られています。

かつて八丈島は「鳥も通わぬ島」といわれ、台風や豪雨が多い自然条件の厳しい孤島でした。しかしこの厳しい風土の中で、島の人々は他の地域では雑草と扱われていた植物から独特な黄金色の天然染料を生み出し、「黄八丈」という特産品を作りだしました。

室町時代に本土へ渡ったのをきっかけに、明治のはじめ頃まで年貢として納められ、広く世間に知れ渡るようになったと言われています。

*参考:世界三大紬「黄八丈」|八丈島観光協会,黄八丈|wikipedia,本場黄八丈|東京都産業労働局

伝統工芸品をサステナブルに生まれ変わらせる取り組み

「昔ながらの」「伝統的な」という修飾語が付けられることの多い工芸品ですが、近年ではサステナブルファッションとして注目されています。伝統工芸品が、持続可能な社会のビジョンに調和した新しい価値を生み出すものへと変換していくための取り組みが行われています。

加賀友禅の取り組み

1975年に伝統的工芸品に指定された加賀友禅は「三大友禅」のうちのひとつで、加賀五彩という5色だけの濃淡で構成されています。

デザインは、写実的で「虫食い」や「ぼかし」などでアクセントをつけ、刺繍や箔を使わず華やかな京友禅より沈んだ色彩で粋に描かれます。

この加賀友禅について、北陸先端科学技術大学院大(石川県能美市)と加賀友禅作家、地元農家が協力し、廃棄されるブルーベリーやユズ、ルビーロマンなどから計6種類の天然染料を開発。染色後の廃液の無害化を実現しました。

*参考:加賀友禅の工房、天然染料で製品挑む サクラやブドウ,文部科学大臣賞|2019年度「STI for SDGs」アワード審査結果|JST 未来の共創に向けた,染色排水の無害化を切り拓く最先端の草木染め

有松絞りの取り組み

国の伝統工芸品に指定される有松絞りは、尾張名古屋の職人による400年続く伝統技法です。

この有松絞りでは、綿の産地インドで生産されるフェアトレードオーガニックコットンを染め上げるプロジェクトが行われています。化学肥料や殺虫剤、除草剤を使わず、労働環境や自然保全が適切に守られた農地の綿花を原料とした、日本の伝統工芸と世界が繋がるサステナブルな新しい取り組みです。

*参考:世界の素材と、日本の技術で生まれるSDGsコラボレーションプロジェクト『meets フェアトレード』,フェアトレード、さらにオーガニック|People Tree

自宅でもできる天然染料を使った染物

自然のもので染めるのはハードルが高いと思われるかもしれませんが、実は簡単に家にあるもので草木染めを体験することができます。

たまねぎ染め

普段なら捨ててしまう玉ねぎの皮ですが、煮出すとやさしい黄に色づく染料になります。

<たまねぎ染めのやり方>
1. たまねぎの皮をネットなどに入れて縛り、水を入れた鍋に入れ沸騰させる
2. 沸騰したら弱火にし、15分~20分ほど煮出す
3. 染めたいもの(ハンカチなど)を鍋に入れ、20分ほど火にかける
4. ボールに布が浸る程度のお湯を入れ、焼きミョウバン(大さじ2)を溶かしておく
5. 染まったものをミョウバンに浸して色を定着させる
6. 水洗いして、干して乾燥させたら完成

参考:LOVEGREEN

コーヒー染め

コーヒーの出がらしでも、肌なじみの良いナチュラルな風合いに染め上げることができます。

コーヒー染めのやり方
1. たっぷりのお湯(1~2L)に口を縛ったインスタントコーヒー(大さじ3)を入れて、10分ほど煮立たせる
2. 染めたいものを入れ、混ぜながら10分ほどさらに煮る
3. 好みの濃さになるまで放置する
4. 色を定着させるために塩を少量加えて溶かし、さらに20分ほど火にかける
5. 水洗いして、干して乾燥させたら完成

参考:Crafty Style

よもぎ染め

野山や河原に自生し、食用や薬草などで親しまれているよもぎ。シルクや綿など染めるものによって淡いオリーブ色に染まったり、やわらかい黄に染まったりするのが天然染色ならではの面白さです。

よもぎ染めのやり方
1. ヨモギ(布の5倍量)を小さく切ってお湯に入れて沸騰させ、中火で20分煮出す
2. ザルに不織布を敷いて、1をこしとる
3. こしとった煮汁を鍋に移し、染めたいものを入れて中~弱火で20分煮る
4. 火を止めて30分~1時間放置する
5. ボールに布が浸る程度のお湯を入れ、ミョウバン(0.5g)を溶かしておく
6. 染まったものをミョウバンに浸して色を定着させる
7. 水洗いして、干して乾燥させたら完成

他にも桜の枝や茜、紫根などいろいろな素材があります。身近に素材がみつからない場合は、草木染め専門店のオンラインショップで素材やキットを手に入れることもできますよ。

草木染めのオンラインショップはこちら▷ MAITO,tezomeya,田中直染料店

日本人にぴったりの草木染めでサステナブルファッションを実践してみよう

大量消費、大量生産の時代に発展してきた合成染料ですが、染色工程で大量の水が消費され、場所によってはその排水が適切に処理されていないのが現状です。

いま、そうした状況を改善するために、サステナブルファッションのさまざまな取り組みが行われています。そのひとつが、この記事でご紹介してきた、日本人が古来から受け継いできた草木染め。環境負荷の少ないサステナブルファッションとして、新たな価値を持って生まれ変わろうとしています。

私たちも身近にあるもので草木染めを楽しむことができます。日本で受け継がれてきた大切な文化を味わいながら、これからの未来につながる一歩として始めてみてはいかがでしょうか。

くらだしマガジン編集部

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